不思議を科学する

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なぜ紫外線は見えないのか

なぜ紫外線は見えないのか

 

 地上に降り注ぐ太陽光には、人の目に見える可視光以外に、可視光より波長の短い紫外線や波長の長い赤外線などが含まれています。太陽光のおよそ6%は紫外線です。人の目には紫外線は見えませんが、紫外線が見える動物はたくさんいます。多くの鳥や昆虫などです。花を紫外線で見ると可視光では見えない模様が見え、一部の鳥や昆虫はその模様を目印に蜜のありかを探します。

 光が眼球の内側の網膜にある視細胞に届くと、感光色素タンパク質(視物質)で光は吸収され電気信号に変換されます。さらにその信号が処理され脳に届くことによって光が見えたということになります。

 目に届いた光は、角膜、水晶体、硝子体などを透過し網膜に到達します。これらの組織は光を透過できるように透明です。しかし、完全に透明ではなく、一部の光を散乱・吸収します。波長が短い青い光ほど透過しにくくなります。青い光よりさらに波長の短い紫外線はすべてこれらの組織(特に水晶体)で吸収され、視細胞まで届きません。

 視物質は紫外線をある程度吸収することができるので、視細胞に直接紫外線を当てれば反応すると思われます。しかし、実際上は紫外線が視細胞まで届かないので、紫外線を感知することはありません。すなわち紫外線が見えないということになります。それは目の前に光が満ち溢れていても目を閉じれば何も見えないことと同じです。

 赤外線は太陽光にたくさん含まれており、およそ42%は赤外線です。しかし、赤外線が見える動物は一部のヘビを除いてほとんどいません。彼らは、目と鼻の間にあるピット器官と呼ばれるくぼみで赤外線を感知しています。夜間、小型の哺乳類や鳥類が発する赤外線を暗闇の中で探知し、捕らえます。

 人の場合、赤外線は眼球内を透過し、網膜まで届きます。しかし視細胞の視物質は赤外線を吸収しないため、赤外線に感度を持ちません。すなわち人の目は、紫外線とは別の理由で赤外線も見ることができないのです。

 

参考文献

市川一夫、水晶体と眼内レンズの分光透過特性(色)の役割、日本白内障学会誌(2016)