不思議を科学する

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紫外線で虫を呼び寄せる花

 花は昆虫に受粉を手伝ってもらうために、よく目立つ赤、黄、白などの色をしています。緑の葉の中でこれらの色の花が咲いていると遠くからでもすぐに見つけることができます。さらに花は受粉を確実にできるように、人の目に見える可視光だけでなく、紫外線も使って虫を呼び寄せています。花には紫外線で見える模様があり、蜜や花粉のありかを虫に知らせています。

 ミツバチの目は紫外線、青、緑に感度の高い3種類の視細胞を持っています。ミツバチは人が見える赤い光が見えない代わりに、人が見えない紫外線が見えているのです。また、モンシロチョウには紫外線、紫(菫)、青、黄緑、赤、暗赤に感度の高い6種類の視細胞があります。モンシロチョウは赤い光も紫外線も見えているのです。昆虫の種類によって視細胞の数や見える光色は異なりますが、多く昆虫は紫外線が見えます。

 昆虫は花の蜜や花粉を餌としています。花を紫外線カメラで撮影すると、蜜や花粉がある場所に可視光では見えない模様が見えます。

 黄色いタンポポの花を紫外線カメラで撮影すると中央部分に黒い模様が見えます。黒く映っているということは、そこの部分が紫外線を反射しないということです。タンポポの花の中央部に蜜が出る部分や花粉があるおしべが集まっています。紫外線で黒く見える模様を目印に虫が集まってきていると考えられます。

 白や黄色の花は葉の色とはっきりと異なっていて、遠くからでもその存在に気づくことができます。花に近づいてきた昆虫に、今度は花のどこに蜜や花粉があるのかを知らせる必要があります。紫外線で黒く見える花の中心の模様にとまると、蜜や花粉にありつけるのです。

 人と同じように植物にとっても紫外線は有害です。葉緑体ができる前の若葉が赤い色をしているのは、アントシアニンという赤い色素が紫外線から若葉を守ってくれるためです。これと同じように、花の中心が紫外線を吸収するのは虫を呼び寄せるためだけではなく、大事なおしべやめしべを紫外線から守る働もあります。

 このように花は紫外線が見える昆虫の眼の特性を上手く使って呼び寄せるとともに、危険な紫外線から身を守る術を持っているのです。

 

参考文献

(1)海野和男、虫の目になってみた、河出書房新社(2016)

(2)蟻川謙太郎、昆虫色覚の神経行動学的研究、科研費NEWS・最近の研究成果トピックス(2015)

(3)浅間茂、虫や鳥が見ている紫外線の世界、自然観察大学室内講習会(2019)