不思議を科学する

不思議を科学する

窓ガラスが光環境を激変させた

 窓ガラスは、光を通すことができますが、音の遮蔽効果は高く、匂いを完全に遮ることができます。二重窓にするとほとんど音も遮ることができます。これは、よくよく考えてみると不思議な気がします。外からの騒音を小さくし、嫌な臭いをさえぎり、明るい光を室内に取り込むことができるのです。窓ガラスが使われるようになって、住宅などの居住環境は格段に良くなりました。

 生まれた時から窓にはガラスがあったためか、寒い冬も雨の日も暖かい部屋の中から窓ガラスを通して外の景色をみることができるのを当たり前と思ってしまいます。しかし、一般の住宅に窓ガラスが使われるようになったのは昭和になってからです。それは現在のような無色透明で平坦なガラスを作るのが難しかったことによります。

 ガラスが使われるまでは、窓には障子と木戸が用いられていました。そもそも昔の家は軒が長くて低く、外光が入ってきにくい構造でした。石やレンガを使わない日本建築は横なぐりの雨を防ぐためにやむをえず軒を長く低くしなければなららかったと思われます。太陽の直接光は届かず、一度庭で反射し、弱まった光が障子に届いていました。その上、障子を通った光はますます弱くなり、昼でも家の中は薄暗かったようです。和紙でできた障子の光の透過率は40~50%です。

 地方の町などに古い民家が保存されていて、見学できるようになっているところがあります。それほど興味があるわけではありませんが、何気なく立ち寄ってみたことがあります。家の中の様子など詳しいことは忘れてしまいました。ただ、いつまでも印象に残っているのが、家の中がとても暗かったということです。外は明るい昼間なのに、家の中は薄暗い夕方のようでした。もし電灯があるならば、必ずスイッチを入れるだろうと思われる暗さです。このような薄暗い中で生活するのは、さぞかし不便だったことでしょう。

 時代とともに窓は大きくなり、窓ガラスを通してふんだんに太陽の光を室内に取り入れることができるようになりました。それにより昼間の室内の明るさが格段に高まるとともに、開放感も増しました。

 窓ガラスには一般にソーダ石灰ガラスが使われています。原料にはケイ砂、ソーダ灰、石灰などが用いられている。これらの原料は土の成分とほぼ同じであり、なくなることはありません。板硝子は20世紀半ばに発明されたフロート法という製法により作られています。フロート法では、溶かしたスズの上に温めて液体状にしたガラスを流した後、冷やして固めることにより、両面が平らなガラスを作ることができます。スズが使われるのは融点が低く、ガラスより比重が大きいことなどのためです。

 厚さ3ミリメートルの板ガラスで、可視光の透過率は約90%です。透明に見えるために、紫外線や赤外線も可視光と同じように透過すると思われがちですが、波長が300ナノメートル以下の紫外線(UV-B)や3マイクロメートル以上の遠赤外線はほとんど透過しません。1マイクロメートルは1000分の1ミリメートルです。

 UV-Bを通さないため、ガラスを通して室内に取り入れた太陽光には殺菌効果があまりありません。また、窓を閉めていると熱(赤外線)が室外に逃げていきにくく、室内を暖かく保つことができます。温室にガラスが使われるのもこのためです。