不思議を科学する

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虹の根本にはたどり着けない

 雨があがり、日が射してくると、条件が良ければ虹が出ることがあります。虹は空中に浮かぶ水滴によってできます。虹を作る水滴の大きさはおよそ0.1ミリメートルから1ミリメートルで、小粒の雨や霧雨です。

 図1のように、空中に浮かぶ水滴に太陽の光が射すと、光は水滴の表面で屈折し、水滴の中に入っていきます。水滴の中を進んだ光は水滴の表面で反射し、また水滴の中を進み、今度は水滴の外へと出てきます。出てくるときも表面で屈折します。

 白い太陽の光は波長の異なるさまざまな色の光が合わさったものです。水滴の表面での屈折の角度は光の波長によって異なり、波長の長い赤い光は小さく曲がり、波長の短い紫(JIS光源色の色名では青紫)の光は大きく曲がります。そのため白い太陽光が7色に色分けされます。空中にたくさんの水滴があり、同じように屈折と反射をして人の目に届いた光が合わさると虹として見えるのです。

 この屈折と反射の特性により虹ができるのは、太陽を背にしてみた場合、赤色は太陽光の進む方向に対し42°の円周上、紫は40°方向の円周上です。それで虹の外側が赤色で内側が紫になります。

 図2のように虹は40°から42°の方角にできるので、虹の根本に行こうとして人が動けば、その分だけ虹も動いていき、虹の根本は常に同じ方角に見えることになります。近づいて行こうとしてもそれだけ遠ざかっていき、虹の根本には決してたどり着くことはできません。それでも諦めずに近づいて行こうとすると、ついには虹を作っている雨の中に入ってしまい、虹は消えてしまうのです。

 晴れた日に太陽を背にして噴水の水を見ると、虹ができていることがあります。その虹に近づこうと噴水のところまで行くと、虹は消えて見えなくなり、噴水の水を浴びて濡れるだけです。

図1 水滴での光の屈折と反射

 

 

 


図2 虹のできる位置

 

 自分の影を踏もうとして足を踏み出すと影は遠ざかり、影を踏むことができません。虹もそれと同じです。求めれば遠ざかり決して得ることができないものは、遠くからただ眺めているのがいいのかもしれません。

目のないサンゴがなぜ満月の夜を知ることができるのか

 植物のように見えるサンゴは刺胞(しほう)動物の一種で、クラゲやイソギンチャクの仲間です。

 他の動物と同じように動くことができるのは子供(プラヌラ幼生)のころだけです。プラヌラ幼生には繊毛があり、それを動かして自ら水中を泳ぎ、棲すみやすい場所を探します。

 サンゴはプランクトンを捕らえて餌としていますが、それだけでは十分な栄養を確保できません。体内に取り込んだ褐虫藻という藻類と共生していて、光合成を行う褐虫藻から栄養分をもらってサンゴは成長しています。そのためプラヌラ幼生は光のよく届く水深の浅い所にある岩などに固着し、その後イソギンチャクのような姿をしたポリプとなり成長していきます。

 ほとんどのサンゴの産卵は年に1回です。多くの種が満月前後の夜に一斉に産卵します。一斉に産卵すると、受精に成功しやすくなるので子孫を残す確率が高まるのです。

サンゴには形が分かるような高度な目はありません。岩に固着していて動かないので、高度な目は必要ないのでしょう。ではサンゴが何を手がかりに満月の夜を知り、産卵日を決めているのでしょうか。

 サンゴは全く光を感じることができないというわけではなく、体の表面にある眼点という単純な組織で光の有無や強さなどを感知することはできます。したがって月を見て月齢を知り、今日が満月だと判断しているわけではありません。

 台湾中央研究院のChe-Hung Lin博士らはサンゴが満月の日を知る仕組みを解明しました。満月以前では太陽が沈むと同時にすでに空に浮かんでいる月が明るくなります。夕方、太陽も月も出ていない時間帯はありません。一方、満月以降は太陽が西に沈んでからしばらくして月が東の空から現れてきます。すなわち満月以降には太陽も月も出ていない暗い時間帯が現れます。Che-Hung Lin博士らによると、サンゴはこの暗い時間帯の発生を合図に一斉に産卵するというのです。

 単純な眼点しか持たないがゆえにサンゴは満月の日を知る独自の方法を生み出したのでしょう。最も明るい満月の日を暗さから知るとはなんとも不思議です。

 

参考文献

Che-Hung Lin, et al., Moonrise timing is key for synchronized spawning in coral Dipsastraea speciosa, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(2021)

ライオンの狩りの9割は夜に行われる

 肉食動物の代表格であり百獣の王と言われているライオン。目は狩りに適するように進化しており、おもな特徴として二つ挙げることができます。

 その一つが目の位置です。シマウマなどの草食動物は目が頭の両側に位置していることにより、広い視野で周囲を監視することができます。一方、ライオンは人と同じように両目が頭の前方について、視野は広くありません。しかし、両目の視野が重なることにより、立体視ができ距離を正確につかむことができます。追いかけて獲物を捕らえるにはその動物までの距離を知ることが重要です。

 ライオンの目のもう一つの特徴が、ネコと同じように眼球の中にタペタムという反射板があることです。

 ライオンの狩りの様子がしばしばテレビに流されることがあります。シマウマなどの草食動物を集団で狩りをしているところです。そのほとんどが昼間の映像です。そのためライオンは昼間に狩りをするものと誤解している人が多いのではないでしょうか。

 実際にはライオンの狩りの9割は夜間に行われます。昼間の狩りの成功率は低く、失敗に終わることが多いからです。走力に勝る草食動物を捕らえることは簡単ではありません。そのためライオンは昼間あまり活動せず寝ていて、日が落ち暗くなると狩りを始めるのです。

 夜の狩りの方法として、たとえば水場で待ち伏せ、水を飲みに来た動物を襲ったりします。ライオンは月が出ているときを嫌い、月の出ていない星明りだけの暗い夜を好みます。獲物となる動物に気付かれずに近づくことができるからです。

 それを可能にしているのが、暗い中でも見える目です。角膜を通り瞳孔から眼球に入ってきた光はすべて網膜で吸収されるわけではありません。光の一部は網膜を通過してしまいます。しかしライオンの目の網膜の後ろにはタペタムがあり、通過した光はそこで反射されてもう一度網膜を通ります。

 この仕組みにより網膜での光の吸収率を上げ、目の感度を高めているのです。そのためライオンの目は、月の出ていない星明りだけの暗い夜でも獲物の姿を捉えることができます。

 テレビカメラで夜の狩りの様子を撮影するには、ライオンの目と同じように高感度な特殊なカメラが必要です。また撮影した映像も白黒ではっきりしません。それよりは普通のカメラで迫力ある昼間の狩りの様子を撮影したほうがいいのでしょう。

ナマズのひげ ネコのひげ

 ナマズは川、池、湖、用水路などの淡水に棲む肉食魚です。小魚、ザリガニ、カエルなどをおもな餌としています。どう猛なハンターで、大きなザリガニを頭から一気にまる飲みにする迫力ある映像をテレビで見たことがあります。ザリガニのハサミで口の中や胃が傷つかないのかと心配になるほどでした。

 ナマズは夜行性で目は小さく視力がよくありません。昼間は穴の中や物陰に潜んでいてほとんど活動しません。

 ナマズの特徴は触鬚(しょくしゅ)と呼ばれる4本のひげです。上あごの2本のひげは長く、下あごの2本ひげは短く、自由に動かすことができます。夜暗い中で獲物を捕らえるためには目は役に立ちません。ナマズは視覚以外の感覚器官が発達しています。ひげもその一つです。

 ひげを動かし触れることで障害物や獲物の存在を知ることができます。またひげには味を感じ取る味蕾という器官がたくさんあり、食べられる獲物かどうかを判断します。食べられる獲物とわかれば大きな口を開けて捕らえるのです。

 ナマズは嗅覚も鋭く、遠くにいる獲物を臭いで感じ取ります。さらに動物が出す微弱な電気を感じ取ることができ、近づいてくる獲物の位置を把握します。これらの感覚器官を駆使して暗い中で狩りをしているのです。

 ネコも夜行性です。目の瞳孔は縦長のスリット型ですが、暗いところではその瞳孔を丸くし、たくさんの光を取り入れることができます。また網膜の裏側にタペタムという反射板があり、瞳孔から取り込んだ光をできるだけ逃さないようにキャッチする仕組もあります。それらにより目の感度は高いのですが、視力があまりよくありません。

 ネコにも触毛(しょくもう)と呼ばれるひげが口の周りや目の上にあります。ネコのひげの根本にはたくさんの知覚神経があり、何かに触れるとその存在を感じ取ることができます。それで真っ暗なところを歩くときも物にぶつかることはありません。

 ネコのひげの感度は高く、触れたもの存在が分かるだけでなく、わずかな空気の動きも感じることができます。それによりネズミなどの獲物の動きも捉えることができるのです。

 ナマズは英語でキャットフィッシュですが、ネコのようにひげがあることからその名前がついたようです。ナマズもネコも夜行性ですが視力はよくなく、その代わりに暗い中でも働くほかの感覚器官が発達しています。特にひげは夜活動したり捕食したりするために重要な役割を担っています。

飛行機雲が見えるのはどんな日?

 思わず見上げたときにまれに飛行機雲を発見することがあります。青空に描かれたまっすぐに伸びる白い線。飛行機雲は長いものもあれば短いものもあり、その終端は徐々にかすれて消えてゆきます。

 飛行機は毎日のように飛んでいるのに飛行機雲が見える日は限られています。飛行機雲が見える日と見えない日があるのはどうしてでしょうか。

 飛行機雲を作るジェット機が飛行しているのは、高度約10キロメートル。航空機の燃料のおもな成分は炭化水素です。それは炭素と水素の化合物で、エンジンで燃えると二酸化炭素と水(水蒸気)になります。ジェット機が飛行している高度10キロメートル付近は、気温がマイナス40℃以下と低いので排出された水蒸気はすぐに水滴となり、さらに氷の粒になります。

 氷の粒の集まりが光を乱反射し白く見えるのは、普通の雲と同じです。この氷の粒は湿度が高いと蒸発しにくくしばらく空中に浮かんでいて、それが地上からは飛行機雲として見えるのです。しかし、湿度が低くなるにしたがって蒸発するまでの時間は短くなり、飛行機雲は短くなっていきます。湿度がさらに低くなると氷の粒はまたたく間に蒸発するので、飛行機雲として見えることはありません。

 ごみ処理場の煙突から出る白い煙はゴミを燃やして排出されるガスです。ジェット機のエンジンから排出されるガスと同じように水蒸気が含まれています。水蒸気は無色透明で見えませんが、水蒸気が冷えて水滴になると、光を乱反射して白く見えます。

 これは薬缶で湯を沸かすと湯気が出てきて白く見えるのと同じです。よくみると沸騰している薬缶の口付近は透明で、これは水蒸気が湯気(水滴)になる前の状態です。薬缶の口から少し離れると水蒸気が冷えて湯気となり、白く見えます。同じように、煙突の煙も出口付近は透明で、白く見えるのは出口から少し離れたところからです。

 ごみ処理場の煙突から白い煙も見える日と見えない日があります。見えるのは、まず水蒸気が水滴になりやすい気温が低くい日です。それとともに、できた水滴が消えにくい湿度の高い日でなければなりません。

 工場の煙突などから排出されるガスでススが多く含まれていると白く見えます。しかし、その場合は煙突の先端部分は透明でなく、煙突の出口からすでに白くなっています。ススが含まれて白く見える煙は、気温や湿度に関係なくいつでも見ることができます。

 このように飛行機雲も煙突の煙も気象条件や排出されるガスの成分によって見えることもあれば見えないこともあるのです。

唐辛子が赤く熟すると辛くなるのはなぜ

 味覚はおもに舌の上にある味を感じ取る細胞によって生ずる感覚で、苦味、酸味、甘味、塩味、うま味の5種類です。辛味は味覚の一種と考えられがちですが、厳密には味覚には含まれず、痛覚によって生じる感覚です。

 中華料理やアジア料理で色が赤くなっていると唐辛子がたくさん入っているようで辛いのではないかと思ってしまいます。赤色が濃くなるほど辛さが増すというのは大体当たっていますが、赤くてもそれほど辛くない場合やあまり赤くなくても舌がしびれるほど辛いこともあります。

 唐辛子はナス科の植物で ピーマン、シシトウ、パプリカなどと同じ仲間です。

赤い色を作っているのは「カプサンチン」という色素です。カプサンチンには種子を紫外線から守る抗酸化作用があります。一方、辛みは「カプサイシン」という無色の化学物質によるものです。名前が似ているけれども赤色の成分と辛みの成分は別ものです。したがって赤いほど辛いというわけではありません。

 ところで唐辛子は実をなぜこんなに辛くしているのでしょうか。

 人と違って多くの動物が辛みを嫌います。動物に食べてもらって種を遠くに運んでもらいたいなら、辛くするのではなく甘くした方がよいのではないかと思われます。

 唐辛子が実を辛くしているのは、動物から種子を守るためです。特に哺乳類は辛みを嫌うので食べるのを避けます。発芽して育っていくのが胚ですが、唐辛子の胚を覆う種皮はあまり固くなく、哺乳類が食べると歯で噛み砕かれてしまいます。そうすると種が消化されずに排泄されても発芽できません。唐辛子は哺乳類に食べられると困るのです。

 鳥類は辛みを感じる味覚がないので唐辛子を好んで食べます。鳥類には歯はなく、実をまる飲みするので種が砕かれることはありません。そのため排泄された種子は発芽することができます。また、哺乳類に比べ空を飛べる鳥類の行動範囲は広いので、鳥に食べてもらった方が、種が広い範囲に分散されることになります。

 カプサンチンの色素によって赤くなっていますが、紫外線から身を守るだけでなく、赤くなることによって目立ちやすくしているのです。霊長類を除く哺乳類は赤と緑の識別がうまくできないため、赤くなった実が目立って見えることはありません。しかい、鳥類は赤色を識別できるために熟した唐辛子の実は目立って見え、見つけやすくなっています。

 唐辛子は分布を広げ子孫を増やすために、カプサイシンによって辛くし、カプサンチンで色を赤くしているのです。

遠近感

 絵画は3次元の空間を2次元である平面の上に描いたものですが、描かれた人物や風景などには遠近感があり、空間の広がりが感じられます。テレビの画像も平面ですが、絵画と同じように映し出されたものは近くにあるのか遠くにあるのかが容易に分かります。絵画やテレビの画像の遠近感は、コントラスト、大きさ、物と物との重なり、陰影などが作り出したものです。

 人が実際に見ている景色は絵画やテレビの画像よりも遠近感が増して見えます。眺めている景色は3次元の空間ですが、目の中の網膜に映し出された像は絵画やテレビと同じ2次元です。それなのになぜ絵画やテレビの画像より遠近感が増すのでしょうか。

 おもな要因としては、両眼視差、輻輳角そしてピント調整が挙げられます。

 人の二つの目は頭の前方についていて、その間隔は約6.5センチメートルです。この距離により左右の目に映る像に差が生じます。これが両眼視差です。距離が近いほどその差は大きく、遠くなるにしたがって小さくなっていきます。

 両方の目の視線が一点(同じもの)に集まることにより、それぞれの目はやや内側(鼻側)を向くことになります。その交わる視線が作る角度が輻輳角です。近くを見ているとき輻輳角は大きく、遠くを見るときは小さくなります。

 ピントが合っていないと見ようとしている像がはっきりと見えません。ピントを合わせるためには、近くを見るときは目の中の毛様体という筋肉を縮ませ水晶体を厚くし、反対に遠くを見るときは毛様体を緩ませ水晶体を薄くします。このピント調整における筋肉の働きから距離情報が得られます。

 このように両眼視差、輻輳角、ピント調整などで得られた距離情報を脳で処理し、遠近感を高めているのです。特に両眼視差と輻輳角は距離を正確に把握するためには重要です。

 片目で見ていても遠近感は得られますが、その精度はあまり高くはありません。両目を開けていると難なくできることが、片目ではできないことがあります。例えば片目を閉じて、左右の人差し指を徐々に近づけくっつけようとしてもうまくいきません。

 両目で見ることにより両眼視差や輻輳角が生じ、それらをもとに距離をより正確に捉えることができようになります。キャッチボールをしていても、片目では球を捕るのが難しくても、両目を開ければ難なく捕球することができます。

 間隔をあけて正面を向いている二つの目。それらがもたらす情報は、距離を把握するうえで重要な役割を担っているのです。