不思議を科学する

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灯台下(もと)暗し

灯台下(もと)暗し

 

 チルチルとミチルの兄妹は,幸せの青い鳥を探しに行くがどこにも見つけることができない。しかし、目がさめてみると,部屋の鳥かごに青い鳥がいたことに気づく。この童話のように、「灯台下暗し」ということわざは、近くにあるものにはかえって気がつきにくいということを意味します。

 岬などに設置されている灯台。日本式の灯台が建てられたのは江戸時代になってからで、そのころの灯台は「かがり屋や」とか「灯明台」と呼ばれていて、油を燃やして火をともすものでした。西洋式の最初の灯台は明治になってからです。灯りが遠くの船から見えるように、灯台にはフレネルレンズというレンズが使われています。フレネルレンズは断面がのこぎりの歯のように凸凹したレンズで、光を集めて水平方向に投射することにより、遠くまで届く強い光を出すことができます。

 光は水平方向に出ているため、灯台の下にはほとんど光が届きません。そのためか「灯台下暗し」ということわざに使われている灯台は、岬の灯台のことを指すと勘違いをしている人が多いようです。

 「灯台下暗し」の灯台は、岬の灯台ではなく、昔使われていた室内の照明器具のことです。図に示すように、燭台に似た木製の台の上に皿を乗せ、菜種油などを入れて火をともすものです。灯台のすぐ下は皿の陰になって暗いことよりこのことわざが生まれたと言われています。清少納言の「枕草子」にも灯台の記述があり、少なくとも平安時代には宮廷などで使われてました。

 一方、岬の灯台を「灯台」と呼ぶようになったのは明治時代以降。「灯台下暗し」ということわざは江戸時代には使われていましたので、岬の「灯台」を由来とするのは無理があるようです。また、岬の灯台はどこかを明るく照らすものではなく、遠くからその位置を知らせる信号です。その役割からみてもことわざの意味としては合わない部分があります。

 

図 灯台

 

参考文献

今村智也、高杯(たかつき)型灯台について、照明学会誌(1999)