不思議を科学する

不思議を科学する

皮膚は光を感じ、色を感じる

 

 ひとの感覚器官で光を感じとり、色を見ることができるのは視覚である目です。それ以外の感覚器官は光や色を感じとることができないと思われています。

 ひとの目には見えない赤外線が皮膚に当たると暖かく感じますが、これは皮膚が赤外線を感じ取っているといえるでしょう。また、紫外線がたくさん当たると体に害を与えるので、それを防ぐためにメラニン色素を作り皮膚を黒くすることで、紫外線の吸収が少なくなるような仕組みがあります。紫外線が当たっても目には見えませんが、確かに皮膚は紫外線が当たっていることを感知していることになります。

 傳田光洋氏は、傷ついた皮膚の角層バリアの回復と光の色な関係について実験を行いました。角層は表皮の一番外側にある層で、バリア機能があります。実験では壊れた角層部分に赤、緑、青の光を当て、回復の速さを比較しました。それによると赤だと早く回復し、青だと回復が遅れるという結果を得ています。皮膚が光の色によって異なる反応をしているのです。これは光の色を識別していると考えることができます。

 目の網膜にあって、光を電気信号に変換しているのが視細胞です。視細胞含まれ、光を吸収する視物質中のタンパク質はオプシンと呼ばれており、色の識別とかかわっています。最近、このオプシンが皮膚にもあることが分かってきました。ただし、皮膚のオプシンがどう作用するのかまでは分かっていませんが、皮膚による光の色の識別に何らかの関係があるかもしれません。

 タコは体の色を変えることで、移動しながら岩や海藻などのまわりの色に似せ、ウツボなどの天敵に見つからないようにしています。しかし、タコの目は色の識別ができません。色が分からないのになぜ周りの色に似せることができるのか不明ですが、皮膚自体が周りの色を感知していると考えると納得できます。

 皮膚は光だけでなく、音(超音波)も感じ取っているという実験結果がいくつか報告されています。さらに傳田氏によると、皮膚は光や音だけでなく、匂いや味にも反応するという。

 皮膚は体を包み、水分の出入りや異物の侵入を防ぐ働きがあります。それとともに、触覚や温冷感にかかわる感覚器官です。しかし、実際はそれ以外の刺激をも捉えており、今まで考えられてきた以上に重要な感覚器官としての働きをしているようです。

 

参考文献 

傳田光洋、第三の脳、朝日出版社(2007)

傳田光洋、皮膚はすごい、岩波書店(2019)