アフリカのある民族の視力がとても良いというのをテレビ番組で取り上げていました。人種や民族によって視力が異なるって、本当でしょうか。まず、視力の上限が何によって決まるのかについて見ていきましょう。
東京医療センターの野田徹によると、もしも眼球が理想的な光学系でできているとすると、視力は網膜の視細胞の密度によって決まるそうです。視細胞は光を感じる細胞で、網膜に映った像をたくさんの視細胞により感じ取っています。この視細胞には大きさがあり、ある間隔で網膜に並んでいます。網膜で最も解像度が高いのは、視線方向の像が映る部位で黄斑と呼ばれています。黄斑に並ぶ視細胞の間隔より小さく映った像の細部を捉えることはできません。つまり視細胞の間隔より小さく映るものは見分けられないということです。黄斑の視細胞の間隔をもとに計算すると、視力の上限は2.0程度になることが示されています。
北里大学の川守田によると、目を構成する光学系に限界があって、網膜に映る像がぼけてしまうが、このぼけが視力の上限を決める要因の一つとなるということです。網膜に映る像がぼける原因としては二つあり、瞳孔による回折と水晶体による収差です。
回折は、瞳孔を通った光が瞳孔の影の部分に光が回り込み、解像度が下がる現象です。瞳孔の直径は明るさにより、およそ2ミリメートルから8ミリメートルまで変化します。瞳孔が小さくなると回折は大きくなりぼけやすくなります。
収差は、レンズなどで物体の像を作るとき、光線が一点に集まらず、像がぼやけたり、ゆがんだりする現象です。収差は瞳孔が大きくなるほど大きくなり、像がぼけやすくなります。
つまり像のぼけ具合は瞳孔の大きさにより決まり、これらから推定される視力は1.4~2.4程度になるとのことが示されています。
視細胞の間隔と目の光学系の二つの観点が示している視力の上限は、2.0かそれをやや上回る程度だということです。
虹彩の色(目の色)を除いて、人種によって眼の構造に大きな差があるという報告は、私の知る範囲では見当たりません。虹彩の色は、まぶしさと若干の色の識別には影響するという報告がありますが、視力には影響を与えないようです。
これらのことを踏まえると、アフリカの特定の民族の視力が格段に良いというのは考えにくいといことになります。
参考文献
(1)野田徹、視覚光学の科学、IRYO(2004)
(2)川守田拓志、光学入門 眼球光学特性から考える視力の推定と偽解像の影響、視覚の
科学(2014)