不思議を科学する

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アリは必要とされることで長生きに

 アリは社会性昆虫です。数えきれないほどのたくさんのアリが土の中に一つの巣で群れを成して生活しています。群れは、卵を産む1匹の女王アリと、同じ女王アリから生まれたおおくの働きアリで構成されています。働きアリはすべて雌、つまり姉妹です。卵や幼虫の世話をしたり餌を探したりするのが働きアリの役割であり、卵を産むことはありません。アリ以外に、ミツバチ、シロアリなども社会性昆虫で、役割を分担し集団で生活しています。

 社会性昆虫であるアリの寿命について興味深い特性があります。

 産業技術総合研究所の古藤日子氏は、オオアリの働きアリを1匹だけで飼育した場合、幼虫と一緒に飼育した場合、10匹のグループで飼育した場合の寿命を比較する実験を行いました。

 その結果、生存日数の中央値はグループで飼育した場合は66日だったのに対し、1匹だけで飼育した場合はわずか6.5日しか生きませんでした。中央値とは数値を小さい方から順に並べたときに真ん中に位置する値です。

 同じように住む場所も食べるものも十分に与えられていても、1匹で飼育されるアリの寿命は極端に短くなります。仲間と交わることなく生きていくことは、アリにとっても孤独やストレスとなり、それが寿命を短くしているのでしょうか。

 一方、幼虫と一緒に飼育したアリの生存日数は22日でした。生存日数はグループで飼育した場合よりは短くなりますが、1匹よりは長くなっています。幼虫の世話をするという役割を持つことが、寿命を長くしています。

 人も家族、会社、グループなどの社会に属し、それぞれの人が役割を分担することでその社会が維持されています。人により属する社会の数や結びつきの強さは変わるかもしれませんが、社会から完全に孤立して生きていくことは難しいでしょう。

 独身者の平均寿命は既婚者に比べて短いというデータがあります。一人で生活していると食生活は乱れがちです。また、孤独で寂しくなりストレスがたまりやすいとも言われています。はっきりはしませんが、これらのことが寿命を短くしている要因と考えられます。

 孤独で何をするあてもなく生きていくのは、ただつらいだけではなく、寿命にも関係してくるようです。家族と生活を共にしたり、何らかの組織やグループに所属したりし、そして日々何か役割をもつことが充実した生活につながり、ひいては長寿をもたらすのかもしれません。

 

参考文献

Koto A, Mersch D., Hollis B., Keller L., “Social isolation causes mortality by disrupting energy homeostasis in ants”, Behavioral Ecology and Sociobiology, 2015; 69: 583-591

キリンの舌が黒いのはなぜ

 キリンが棲んでいるのはアフリカのサバンナ地帯です。動物の中で最も背が高く、5メートルを超えるものもいます。このキリンの舌は黒色をしています。一般に哺乳類の舌はピンク色です。それは血管の中の血液の色が透けて見えているためです。

なぜキリンの舌は黒色なのでしょうか。

 キリンの首が長くなったのは、高い木の葉を食べることができるためと言われています。他の草食動物が届かないところの木の葉を独り占めできます。キリンが高い木の葉を食べるとき、首を伸ばし、さらに40~50センチメートルもある長い舌を伸ばし、葉を絡めるようにして巻き取って食べています。

 大きな体を維持するため、1日の半分の時間をかけて食べているので、そのとき長い舌は日光に長時間さらされることになります。サバンナの強い日光には有害な紫外線がたくさん。紫外線は動物や植物のDNA(遺伝情報を担う物質)や細胞に損傷を与える恐れがあります。

 キリンは紫外線を吸収するメラニン色素を作り、この有害な紫外線から舌を守っています。メラニン色素は黒い色をしているので、舌の色が黒くなるのです。

 人でも日光をたくさん浴びているとメラニン色素が作られ皮膚が黒くなります。また、紫外線の強い熱帯地方に住む人の皮膚の色が黒いのもメラニン色素によるものです。

 キリンの体の表面には茶色と白の毛によって作られる4角形から6角形の模様が不規則に並んでいます。その毛をかき分けると黒い地肌が出てきます。これもメラニン色素によって皮膚を守っているのです。

 植物はメラニン色素ではなくアントシアニンやカロテンという色素によって紫外線を防いでいます。花が鮮やかな色をしているのや熟した果実が色づくのはこれらの色素によるものです。若葉が赤い色をした植物がありますが、この色もアントシアニンによるもので、さかんに細胞分裂をしている若葉を紫外線から守っているのです。

 約40億年前に誕生した生命は、紫外線がほとんど届かない海水中で進化をしてきました。水が紫外線を吸収してくれるため、海水中は紫外線による傷害の心配がほとんどありません。約4億年前に植物が、そしてやや遅れて動物が陸上に進出していきました。そこで問題になったのが紫外線対策です。

 陸上の植物も動物も紫外線から体を守るために苦労をしています。キリンの舌や皮膚が黒いのも紫外線対策の一つなのです。

 

スミレの花は紫?

 色の名前を表す色名はたくさんあります。JIS(日本産業規格)で物体の表面の色を表す色名として規定されているのは、269色です 。たとえば、赤を表す色として、ばら色、からくれない、さんご色、紅梅色、紅色、紅赤、えんじ、茜色などが挙げられていますが、その色の差は微妙です。

 しかし、普段使われている日本語には、色の区別においてあいまいなところもあります。青葉や青リンゴの青は緑を指しており、青と緑の区別がはっきりしません。紫についても色の範囲があいまいです。

 和英辞典で紫の英訳を調べるとpurple(パープル)とviolet(バイオレット)との二つの単語が出てきます。英語ではパープルとバイオレットは別の色を指しますが、日常使われる日本語では紫という一つの色にまとめられており、区別されていません。

 紫に関連する色として、パープル、董色(すみれいろ)、バイオレットが、JISの色名に記載されています。ただし、紫とパープルは同じ色を指し、菫色とバイオレットは同じ色を指しています。JISによると、紫やパープルは赤と青の中間の色であり、菫やバイオレットは青と紫の中間の色で青みがかった紫です。

パープルとバイオレットを区別しないのは、例えば黄色と橙色(オレンジ)を区別しないのと同じようなことになります。黄色やオレンジに比べ、パープルやバイオレットに相当する色は自然界には比較的少なく、人工の色として使われることもあまりありません。したがって区別しなくても大きな問題にはならないということかもしれません。

 赤外線は英語でinfraredですが、redに接頭語のinfraがついたものです。これは赤(red)の範囲を超えて、波長の長いものという意味になります。紫外線はultravioletですが、violetに接頭語のultraがついたもので、ultraもvioletの範囲を超えてという意味で使われています。すなわちvioletは可視光で波長の最も短い光ですが、その範囲を超えてさらに波長の短いものという意味です。

 ここで紫外線がultravioletであって、ultrapurpleではないことに注意する必要があります。つまり一番波長の短い可視光は、パープルではなくバイオレットです。虹の七色は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と言われていますが、この紫はバイオレットを指すことになります。

 色の名前は、それぞれの言語の発達とともに長い時間をかけその数を増やしてきた歴史があります。虹の一番内側の色もスミレの花の色も当分は紫が使われることでしょう。

トンボの目は六角形でできている

 自然界には六角形でできたものがたくさんあります。カメの甲羅、キリンの縞模様、雪の結晶など。

 ハチの巣も六角形の穴が集まったものです。巣を作る働きバチは、それぞれ自分の部屋をできるだけ大きくしようと互いに押し合うことによって六角形になります。そのため巣の一番外側の穴で他の穴と接触していない面は丸いいままです。

 柱状節理と呼ばれている岩も六角形です。一般に物質は温度が低くなると体積が小さくなります。噴火によって流れ出た溶岩や地下のマグマが冷え固まったのが玄武岩です。玄武岩も冷えるときに体積が小さくなり、岩が割れて隙間ができていきます。このとき岩は適当に割れていくのではなく、整然とした同じ大きさの六角形に割れていくことによって、柱状節理ができます。

 トンボやハエなどの目は個眼がたくさん集まってできている複眼です。トンボの目には個眼がおよそ2万個。拡大してみると、六角形の個眼がハチの巣のように規則正しく並んでいます。

 光の強さや方向が分かるだけでなく、形が分かるようになった「目」を持つ最初の動物が現れたのは、カンブリア紀(5億4100万年前~4億8500万年前)の初期のこと。世界最古の目を持っていたとされる動物のひとつが三葉虫です。三葉虫は昆虫と同じ複眼構造の目をもっていて、その複眼も六角形の個眼で構成されていることが、残された化石から分かっています。

 ではなぜ自然界には正六角形のものが多いのでしょうか。

 辺の長さが同じ多角形が正多角形です。正多角形は、正三角形、正方形、正五角形、正六角形、……。無限にある正多角形の内、隙間なく敷き詰めることができるのは、正三角形、正方形、正六角形の3つだけです。このうち同じ面積で考えると、周囲の長さが最も小さいのは正六角形です。

 2枚のガラス板の間にシャボン玉を隙間なく並べていくと、自然とシャボン玉は六角形の泡の集合体となっていきます。同じ形で隙間無く面を埋め尽くしていくとき、正三角形、正方形、正六角形のうち接触する線の長さが短い六角形が物理的に最も安定なのです。六角形は構造的にも頑強です。そのため自然界では六角形が多く存在するのだと考えられています。

 

参考文献

(1)佐藤純、複眼のタイルパターンを決める幾何学機構、生物物理(2022)

鳥居が朱色に塗られているのはなぜ

 神社の入り口にある鳥居は、この先に神社があることを示すシンボルとなっています。国土地理院が発行する地図では、神社を示す記号は鳥居をかたどったものです。鳥居には門の役目もあり、俗世界と聖域との境界だともいわれています。

 多くの鳥居が朱色に塗られており、遠くからでもよく目立つ。この朱色の塗装を丹塗り(にぬり)と呼んでいます。朱色の主な塗料としては、ベンガラと鉛丹(えんたん)とがあり、いずれも金属が主成分です。

 ベンガラは鉄の酸化物で、縄文時代には、土器などの彩色に用いられたりしました。約 17000 年前に描かれたフランス南西部のラスコー洞窟の赤色壁画もベンガラによるものです。鉛丹は鉛の化合物で、さび止めの塗料としても使われています。丹塗りは、鉛丹が使われてきました。

 すべての鳥居が朱色というわけではなく、伊勢神宮出雲大社は木の色そのままです。石や最近ではコンクリートで作られた鳥居がありますが、それらの中には色が塗られていないものもたくさんあります。

 朱色の鳥居で有名なのは伏見稲荷大社をはじめとする稲荷神社です。稲荷神社は全国に約3万社あります。伏見稲荷大社には、約1万基の鳥居が参道に並んで立っていて、あたかも朱色のトンネルのようです。稲荷神社以外でも赤い鳥居を持つ神社が多くあります。厳島神社の鳥居も朱色です。伏見稲荷厳島神社は、海外の人が訪れてみたい人気観光スポットの上位にランクされています。朱色の鳥居が外国人にとって魅力の一つとなっているのかもしれません。

 ところでなぜ鳥居を朱色に塗るのでしょうか。

 よく言われるのが「魔除け」や「病気除け」です。谷田博幸の著書『鳥居』によると、それ以外の説として以下のものが挙げられています。

(1)塗料の鉛丹に防虫効果がある。

(2)稲荷の初午祭の「午」が陰陽五行説で「赤」を意味する。

(3)赤は雷の色であり、雷が雨を呼んで稲穂を実らせるため。

(4)渡来人が持ち込んだ大陸系の丹塗り建築の色が鳥居にも反映された。

 いずれももっともらしい説ですが、どれも後付けではないかと谷田は述べています。

色についてだけでなく、鳥居と呼ぶ理由や「鳥が居る」と書く理由についても諸説あって、はっきりしないそうです。おそらく長い歴史の中で決まってきたものなのでしょう。

図 国土地理院が発行する地図の神社の記号

 

参考文献

杉本賢司、伝統の技と扱いの技「丹塗りと柿葺き」、FINEX(2012)

谷田博幸、鳥居、河出書房新社(2014

青信号は緑色で黄信号はオレンジ色

 道路交通信号の色が赤、黄、緑(青)の3色になっているのは世界共通です。交通信号の色は、ばらつきがあり正確に合わせることが難しいことから、範囲を決めて規定されています。それぞれの色の範囲を国際標準として規定しているのは国際照明委員会(CIE)です。日本でも交通信号の色は、国際照明委員会の国際標準を参考にした色の範囲が用いられています。

 信号灯の色の範囲を規定している日本工業規格のJIS Z9103が2018年に改正されました。それによると青信号の色の範囲は、大部分が緑で、若干の青緑色を含みます。日本に交通信号機が導入されたのは1930年です。そのころ青信号は法令で緑信号と記されていました。しかし、青信号という呼び方のほうが広まり、1947年に法令においても青信号という呼び方に変更されました。

 色弱者には赤、オレンジ、黄、(黄緑よりの)緑の識別が困難です。日本では、色弱者が青信号と赤信号や黄信号とを識別しやすいように、青信号は青みがかった(青緑よりの)緑が使われています。また、赤信号と黄信号を明るさの差によって識別できるように、黄の光の強さを赤の1.5倍以上になるように決められています。

 青信号の呼び名と実際の色である緑が一致していないことは広く知られていることですが、黄信号の呼び名と色が一致していないことはあまり知られていません。黄色信号の色は、すべてオレンジ(黄赤)の色名で呼ばれる色の範囲内なのです。なぜ黄信号の色が黄でないか、その理由ははっきりしません。

 海外では黄信号の色の名前を実際の色に合わせている国もあります。いくつかの国ではオレンジと呼ばれていますし、イギリスではアンバー(amber、琥珀色)と呼ばれるのが一般的です。

 赤信号の色はすべて赤の色名で呼ばれる色の範囲内で、3色の中で唯一呼び名と実際の色が一致しています。

 日本は島国なので直接外国と自動車での行き来がないので、道路交通信号について多少ルールが違っていても問題になることはあまりありません。しかし、航空に関しては直接外国との往来があるのでそうはいきません。日本の空港の滑走路や誘導路(滑走路と駐機場を結ぶ通路)に使われている灯火の色は白、赤、黄、緑、青の5色ですが、いずれも国際基準で規定された色が用いられています。

 

参考文献

交通信号博物館、信号機の豆知識、https://signal-net.sakura.ne.jp/sig_all_q4.htm (2024.1.19アクセス)

JIS Z 9103:2018(図記号-安全色及び安全標識-安全色の色度座標の範囲及び測定方法)

黒い岩石が風化して土になるとなぜ茶色になるのか

 地球表面の地殻をつくっている岩石の多くは、地球内部のマグマが地表に噴出したり、地下で冷えて固まったりしてできた火成岩です。火成岩には玄武岩、花こう岩、安山岩があり、玄武岩は黒色で、花こう岩と安山岩は灰色をしています。

 風化は、岩石が風や水などの働きにより砕けて細かくなることです。土は岩石が風化したものや火山灰によってできています。土の色は変化に富んでおり、気候、水はけ、地表からの深さなどによっても変わります。土壌の一番上の層(A層)が黒い色をしているのは、植物などが腐敗分解して生じた「腐植」と呼ばれる有機物を多く含んでいるからです。その下の層(B層)は有機物が少なく、茶色、黄色、赤色、灰色などです。黄色い土は西日本で、赤い土は沖縄県でよく見られます。

 豪雨によって山などの斜面で土砂崩れが起きると、その後に茶色い地面がむき出しになっている様子をときどきテレビのニュースで見かけます。黒色や灰色の岩石が風化してできたB層の土が、なぜ茶色や黄色をしているのでしょうか。

 岩石を作っている元素は、多い順に酸素、ケイ素、アルミニウムで、4番目が鉄です。当然、岩石が風化してできた土もこれらの元素を含んでいます。B層の土の色決めているのは主に鉄の化合物です。鉄には酸化の状態により二価鉄と三価鉄があります。金属が酸素と結びつくことを酸化と言います。金属がさびるのも酸化の一種です。二価鉄がさらに酸化すると三価鉄になります。岩石に含まれている鉄分のほとんどは二価鉄です。二価鉄は黒色なので、岩石は黒っぽく見えます。

 二価鉄が三価鉄になると赤みが増していきます。排水が良い土では鉄が二価鉄から三価鉄に酸化され、いわゆるさびのような状態になるので、色は黄、オレンジ、赤などです。排水が悪い土壌では鉄が還元されて灰色を示します。還元は酸化の反対です。

 鉄によって赤い色を示すものに血液があります。血液の赤色は、赤血球のヘモグロビンに含まれるの鉄が酸素と結びついた色です。これと同じように、岩石が風化し土になる過程で、岩石に含まれている鉄分の酸化が進むと、茶色、赤色、黄色などへと変化するのです。

 

参考文献

今矢明宏、土壌とは何だろう? 分類により土壌を理解する、森林科学(2016)

東照雄、土の色が違う理由:土壌の生成と分類、ペドロジスト(2006 )

谷昌幸、土色は土壌が生成する環境を知る鍵、ニューカントリー(2021)