不思議を科学する

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他者と競わない賢さ(1)アスファルトの裂け目で育つ雑草

 街中を歩いていると少し前まであった建物が取り壊され、突然空き地ができていることがよくあります。敷地はロープで囲われていて、立ち入り禁止の札が立っています。

 新たにできた空き地の土が日の光を浴びるのは数十年ぶりです。湿った土はやがて乾いてきて白っぽくなっていきます。

 土の中に何十年もの間種が眠っていたのでしょうか、それともどこからか種が飛んできたのでしょうか。一月もすると芽吹く植物があります。このような固くて養分の少ない荒地に最初に育つことができる植物は限られています。道端でよく見かけるハマスゲ、エノコログサ、オヒシバなどで、一般に雑草と呼ばれている植物です。

 すぐに次の建物を建てる工事が始まるとそれらの雑草は成長することができません。しかし運よく半年か1年ほど荒地のまま放置されると、成長し花を咲かせ種を残すことができます。

 そんな荒地のほかに、雑草をよく見かける場所があります。アスファルトの裂け目、コンクリートの隙間、石垣の隙間などです。そこは根を張るスペースが十分にはなく、水も少なく、養分を吸収できるような土もほとんどありません。なぜこんな過酷な場所を選んで生えているのでしょうか。他の植物が生育できないほどの環境は、これらの雑草にとっても厳しいはずですが、どうにか成長しています。

 このような過酷な環境ほどライバルが少ないのです。生存のための無理な競争をする必要はありません。建物が取り壊された空き地と同じように、周りに他の植物がないので太陽の光を独り占めできます。考えようによっては雑草にとって理想的な環境なのかもしれません。熾烈な競争をさけ、厳しさにじっと耐え忍ぶことができれば子孫を残せるのです。