不思議を科学する

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トンボの目は六角形でできている

 自然界には六角形でできたものがたくさんあります。カメの甲羅、キリンの縞模様、雪の結晶など。

 ハチの巣も六角形の穴が集まったものです。巣を作る働きバチは、それぞれ自分の部屋をできるだけ大きくしようと互いに押し合うことによって六角形になります。そのため巣の一番外側の穴で他の穴と接触していない面は丸いいままです。

 柱状節理と呼ばれている岩も六角形です。一般に物質は温度が低くなると体積が小さくなります。噴火によって流れ出た溶岩や地下のマグマが冷え固まったのが玄武岩です。玄武岩も冷えるときに体積が小さくなり、岩が割れて隙間ができていきます。このとき岩は適当に割れていくのではなく、整然とした同じ大きさの六角形に割れていくことによって、柱状節理ができます。

 トンボやハエなどの目は個眼がたくさん集まってできている複眼です。トンボの目には個眼がおよそ2万個。拡大してみると、六角形の個眼がハチの巣のように規則正しく並んでいます。

 光の強さや方向が分かるだけでなく、形が分かるようになった「目」を持つ最初の動物が現れたのは、カンブリア紀(5億4100万年前~4億8500万年前)の初期のこと。世界最古の目を持っていたとされる動物のひとつが三葉虫です。三葉虫は昆虫と同じ複眼構造の目をもっていて、その複眼も六角形の個眼で構成されていることが、残された化石から分かっています。

 ではなぜ自然界には正六角形のものが多いのでしょうか。

 辺の長さが同じ多角形が正多角形です。正多角形は、正三角形、正方形、正五角形、正六角形、……。無限にある正多角形の内、隙間なく敷き詰めることができるのは、正三角形、正方形、正六角形の3つだけです。このうち同じ面積で考えると、周囲の長さが最も小さいのは正六角形です。

 2枚のガラス板の間にシャボン玉を隙間なく並べていくと、自然とシャボン玉は六角形の泡の集合体となっていきます。同じ形で隙間無く面を埋め尽くしていくとき、正三角形、正方形、正六角形のうち接触する線の長さが短い六角形が物理的に最も安定なのです。六角形は構造的にも頑強です。そのため自然界では六角形が多く存在するのだと考えられています。

 

参考文献

(1)佐藤純、複眼のタイルパターンを決める幾何学機構、生物物理(2022)