不思議を科学する

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鳥居が朱色に塗られているのはなぜ

 神社の入り口にある鳥居は、この先に神社があることを示すシンボルとなっています。国土地理院が発行する地図では、神社を示す記号は鳥居をかたどったものです。鳥居には門の役目もあり、俗世界と聖域との境界だともいわれています。

 多くの鳥居が朱色に塗られており、遠くからでもよく目立つ。この朱色の塗装を丹塗り(にぬり)と呼んでいます。朱色の主な塗料としては、ベンガラと鉛丹(えんたん)とがあり、いずれも金属が主成分です。

 ベンガラは鉄の酸化物で、縄文時代には、土器などの彩色に用いられたりしました。約 17000 年前に描かれたフランス南西部のラスコー洞窟の赤色壁画もベンガラによるものです。鉛丹は鉛の化合物で、さび止めの塗料としても使われています。丹塗りは、鉛丹が使われてきました。

 すべての鳥居が朱色というわけではなく、伊勢神宮出雲大社は木の色そのままです。石や最近ではコンクリートで作られた鳥居がありますが、それらの中には色が塗られていないものもたくさんあります。

 朱色の鳥居で有名なのは伏見稲荷大社をはじめとする稲荷神社です。稲荷神社は全国に約3万社あります。伏見稲荷大社には、約1万基の鳥居が参道に並んで立っていて、あたかも朱色のトンネルのようです。稲荷神社以外でも赤い鳥居を持つ神社が多くあります。厳島神社の鳥居も朱色です。伏見稲荷厳島神社は、海外の人が訪れてみたい人気観光スポットの上位にランクされています。朱色の鳥居が外国人にとって魅力の一つとなっているのかもしれません。

 ところでなぜ鳥居を朱色に塗るのでしょうか。

 よく言われるのが「魔除け」や「病気除け」です。谷田博幸の著書『鳥居』によると、それ以外の説として以下のものが挙げられています。

(1)塗料の鉛丹に防虫効果がある。

(2)稲荷の初午祭の「午」が陰陽五行説で「赤」を意味する。

(3)赤は雷の色であり、雷が雨を呼んで稲穂を実らせるため。

(4)渡来人が持ち込んだ大陸系の丹塗り建築の色が鳥居にも反映された。

 いずれももっともらしい説ですが、どれも後付けではないかと谷田は述べています。

色についてだけでなく、鳥居と呼ぶ理由や「鳥が居る」と書く理由についても諸説あって、はっきりしないそうです。おそらく長い歴史の中で決まってきたものなのでしょう。

図 国土地理院が発行する地図の神社の記号

 

参考文献

杉本賢司、伝統の技と扱いの技「丹塗りと柿葺き」、FINEX(2012)

谷田博幸、鳥居、河出書房新社(2014