不思議を科学する

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スミレの花は紫?

 色の名前を表す色名はたくさんあります。JIS(日本産業規格)で物体の表面の色を表す色名として規定されているのは、269色です 。たとえば、赤を表す色として、ばら色、からくれない、さんご色、紅梅色、紅色、紅赤、えんじ、茜色などが挙げられていますが、その色の差は微妙です。

 しかし、普段使われている日本語には、色の区別においてあいまいなところもあります。青葉や青リンゴの青は緑を指しており、青と緑の区別がはっきりしません。紫についても色の範囲があいまいです。

 和英辞典で紫の英訳を調べるとpurple(パープル)とviolet(バイオレット)との二つの単語が出てきます。英語ではパープルとバイオレットは別の色を指しますが、日常使われる日本語では紫という一つの色にまとめられており、区別されていません。

 紫に関連する色として、パープル、董色(すみれいろ)、バイオレットが、JISの色名に記載されています。ただし、紫とパープルは同じ色を指し、菫色とバイオレットは同じ色を指しています。JISによると、紫やパープルは赤と青の中間の色であり、菫やバイオレットは青と紫の中間の色で青みがかった紫です。

パープルとバイオレットを区別しないのは、例えば黄色と橙色(オレンジ)を区別しないのと同じようなことになります。黄色やオレンジに比べ、パープルやバイオレットに相当する色は自然界には比較的少なく、人工の色として使われることもあまりありません。したがって区別しなくても大きな問題にはならないということかもしれません。

 赤外線は英語でinfraredですが、redに接頭語のinfraがついたものです。これは赤(red)の範囲を超えて、波長の長いものという意味になります。紫外線はultravioletですが、violetに接頭語のultraがついたもので、ultraもvioletの範囲を超えてという意味で使われています。すなわちvioletは可視光で波長の最も短い光ですが、その範囲を超えてさらに波長の短いものという意味です。

 ここで紫外線がultravioletであって、ultrapurpleではないことに注意する必要があります。つまり一番波長の短い可視光は、パープルではなくバイオレットです。虹の七色は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と言われていますが、この紫はバイオレットを指すことになります。

 色の名前は、それぞれの言語の発達とともに長い時間をかけその数を増やしてきた歴史があります。虹の一番内側の色もスミレの花の色も当分は紫が使われることでしょう。