不思議を科学する

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緑色なのに黒板?

 学校で使われている黒板は一般に暗い緑色(ダークグリーン)です。子供の時から黒板と呼ばれていたので特に疑問を持ちませんでしたが、言われてみると不思議な気がします。

 黒板がアメリカから日本に持ち込まれたのは、学校制度がスタートした明治初期の1872年です。そのとき英語のblackboardを直訳して、黒板と呼ばれるようになり全国に広がりました。そのころは黒板の表面には漆が塗られており、色はまさに黒。黒色から緑色に変わったのが、黒板のJIS規格が制定された昭和29年ころです。そのころから黒板の表面に塗る塗料に合成樹脂塗料が使われるようになりました。

 黒板の色を緑色にした理由は定かではありませんが、よく言われているのが、緑は見えやすく、目に優しい(長時間観ても疲れづらい)というものです。本当に緑は黒よりも見えやすく、疲れにくいのでしょうか。

 黒板の色についていろいろと調べてみましたが、黒色に比べて緑色の方が、目が疲れにくいという信頼できる実験データは見つかりませんでした。一方、読みやすさ(可読性)は、色の対比(主として明度の対比)によって決まります。白いチョークを使った場合、明度の対比はダークグリーンより黒がややまさります。つまり、黒い黒板はやや読みやすいということです。

 黒板の表面で反射が起きると文字が読みにくくなります。廊下側前列に座っている生徒は、窓からの光が黒板の表面で反射する場合があります。反射の仕方は色よりも、塗料の材質の問題です。黒板を黒くするのに昔は漆が使われていました。測定したわけではないのですが、漆にはつやがあり、合成樹脂の塗料より光を反射しやすいと考えられます。その点では、昔の黒い黒板より、現在の緑の黒板の方が反射しにくい。ただし合成塗料の黒を使えば、反射に関してダークグリーンとの差はなくなります。

 緑の利点と考えられるのは、心理的な効果です。京都府立大学の冨田圭子らは、食卓のテーブルクロスを使って、どのような色に癒し効果があるかを調べる実験を行いました。それによると癒しの空間を演出するためには、ベージュが最もよく、次に緑のテーブルクロスが相応しいとう結果になっています。つまり黒に比べ緑は癒し効果が高いということです。

 こうしてみると、目の疲労について比較検討した信頼できる実験データがあれば、もう少しはっきりしたことが言えるのですが――――。しかし、いずれにしても黒板の黒と緑の間には大きな差はないような気がします。

 


      図○○ 癒し効果をもたらすテーブルクロスの色

       

 

参考文献

(1)深見輝明、緑色はホントに目にいいの?、ウェッジ(2001)

(2)Keiko Tomita, et al.: Psychological effects of tablecloth color on diners under

different brightness, Journal for the Integrated Study of Dietary Habits (2007)