不思議を科学する

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黒い果実は目立たない?

黒い果実は目立たない?

 

 植物がその近くに種子を落としていたのでは分布を広げることはできません。また、種子が芽吹いても親の近くは病害虫も発生しやすいし、樹木では親木と光や養分を争うことになります。成長し、子孫を増やすためには、種子を離れたところに運ばなければなりません。

 動けけない植物は、種子に綿毛をつけて風によって運んでもらったり、自ら弾けて飛んでいったりするものもありますが、多くは動物の力を借りています。動物に果実を食べてもらい、そのなかにある消化されにくい種子が糞と一緒に排泄されることによって、遠くに運んでもらいます。

 そのため果実は動物に見つけてもらいやすいように目立つ色をしているのです。熟する前は葉と同じ緑色をしていて目立ちませんが、熟するにしたがって赤色や黄色に変わっていき、目立つようになります。

 しかし、果実の中には、ブルーベリーやブドウのように黒または黒に近い濃い紫や濃い青をしているものもあります。赤色や黄色に比べて、黒は目立ちにくい色です。果実の色の割合を調べた資料によると、赤(赤に近い色を含む)が約4割で最も多く、次に多いのが黒(黒に近い色を含む)で約3割です。自然界では黒い果実が意外と多いことが分かります。

 なぜこれらの果実は目立ちにくい黒色をしているのでしょうか。種を運んでくれる動物に見つからなくてもいいのでしょうか。

 サルや人のように哺乳類の一部も果実を食べますが、果実を食べ、種を運ぶ動物の多くは鳥です。

 熟していない果実の色は目立たない緑ですが、これは葉緑素クロロフィル)の色です。熟するとクロロフィルは分解され、アントシアニンという色素が作られ色づきます。アントシアニンが増えるほど果実の色は濃くなります。そして一部の果実は黒くなるのです。

 アントシアニンは紫外線を反射します。また果実の表面はツヤツヤしていますが、このツヤも紫外線を反射します。一方、果実のまわりの緑の葉は紫外線をあまり反射しません。そのため、紫外線が見える鳥にとって、黒い果実はよく目立って見えているのです。

 人やサルがほかの哺乳類に比べて色覚を発達させたのは、赤色や黄色に熟した果実を見つけやすくするためだと考えられています。紫外線も見えるように進化すれば、さらに熟した果実を見つけやすくなっていたかもしれません。

 

参考文献

日本色彩研究所、Color、No.146