ドレスの色の見え方は色恒常性のせい?
昼間の太陽の光で照らされた白い紙は白く見えます。これはいろんな色の光を含んだ太陽光が紙の表面に当たり、当たった光のほとんどすべてが反射して見ている人の目に届くからです。
夕方の黄色い太陽の光で照らされた白い紙も白く見えます。夕方の太陽の光は昼間と違って青い光が少なく、赤や黄色の光の割合が高くなります。当然、紙の表面で反射して人の目に届く光は赤や黄色の光を多く含みます。それでも人の目に見える紙の色は白です。
晴れた昼間、北側の窓に広がる青い空。この窓から入る光で照らされた白い紙も白く見えます。青空の光は昼間の太陽の光と違って赤や黄色の光が少なく、青い光を多く含みます。当然、紙の表面で反射して人の目に届く光も青い光を多く含みます。それでも白い紙が青く見えることはありません。
このように照らしている光(照明光)の色にかかわらず、物の色の見え方が変化しないことを色恒常性といいます。
白い紙は光をたくさん反射し、灰色の紙が反射する光は白い紙より少ない。反射する光の強弱により、紙の色が白に見えたり灰色に見えたりします。日向に置かれた灰色の紙が反射している光と、日陰に置かれた白い紙が反射してくる光を比較すると、日向に置かれた灰色の紙の方がたくさん光を反射しています。しかし、より白く見えるのは反射している光が少ない日陰の紙です。
照明光の強さにかかわらず白いものは白く、灰色のものは灰色に見えるのも色恒常性によるものです。
色の恒常性とは、無意識に照明光の色や強さを推定し、本来の物の色に見えるように色を補正して知覚することを言います。この仕組みのおかげで、照明光によって物の色が変化することなくいつも同じ色に見えるのです。もし照明光によって物の色が違って見えたら、ものを正しく特定するのが難しくなりそうです。
2015年、ブログに投稿されたドレスの色が人によって「青と黒」か「白と金」かに分かれる不思議な現象が起きることから、世界中で話題になりました。私には「白と金」に見えますが、「青と黒」に見える人がいるということがその時は信じられませんでした。
この現象も色恒常性によるものです。このドレスの画像を見た時も、無意識にドレスを照らす照明光の推定を行い、色を補正しているのです。色が人によって異なって見えるのは、照明光の推定に個人差があるためだとするのが、専門家の一般的な考え方です。照明光を白くて強い光と推定すると「青と黒」に見え、青白い弱い光と推定すると「白と金」に見えるということになります。実際上はその中間的な推定を行い、中間的な色に見える人もいて、はっきり二分されるものではありません。
図 色の恒常性
影の中の楕円と同じ色は日向の1の楕円。1の楕円の方が暗い色に見える。
参考文献