不思議を科学する

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火山が噴火すると夕焼けが赤くなる

 画家ムンクの代表作である『叫び』は、背景となる燃えるように赤く染まった空が印象的です。この絵を最初に見たとき、人物がほほに手を当て叫んでいる様子を描いたものかと思いました。そうではなく自然の叫びに対して耳をふさいでるとの説明は、意外でした。

 ムンク1863年ノルウェーデン生まれ。ムンクが『叫び』を描く数年前の1883年に、インドネシアのクラカタウ島で大噴火がありました。絵に描かれている赤い夕焼けは、その火山噴火の影響によるものだとする説があります。

 なぜ火山が噴火すると夕焼けが赤くなるのでしょうか。

 大規模な火山噴火では成層圏まで噴煙が一気に到達し、その後広い範囲に広がった噴煙は何年にもわたって成層圏を漂うことになります。漂う火山灰の粒の大きさは1マイクロメートル以下で、非常に小さなものです。1マイクロメートルは1ミリメートルの1/1000の大きさです。

 地球を包んでいる大気の存在する範囲である大気圏のうち、高さ約10~50キロの範囲が成層圏です。成層圏の下の層の対流圏では雨が降るので、漂う火山灰は洗い流され、短期間でなくなります。しかし、非常に小さな粒の火山灰が対流圏を超えて成層圏にまで達すると、そこでは雨は生じないので洗い流されることはなく、長期間にわたって漂うことになります。

 光は目の網膜に届くと見えます。光が目の前を通り過ぎただけでは、何も見えません。夜の空の上を太陽の光が横切っていますが、それが見ることはなく、空は暗いままです。光は物に当たり反射して、目に届いて初めて何かが見えることになります。日没時の太陽の赤い光が空気中のチリや雲に当たり、反射して人の目に届くことにより赤い夕焼けが見えるのです。

 雲がなければ、夕焼けで赤く染まるのは地平線近くの空です。普通は空高くまで赤く染まることはありません。夕方の太陽の赤い光の多くは、そのまま空を透過して宇宙へと消え去っていくだけです。しかし、大噴火によりたくさんの火山灰が成層圏を漂っていれば、赤い太陽の光がその火山灰で反射され、地上の人の目に届くのです。そうすると空が高くまで赤く染まっているように見えます。

 『叫び』は、ムンクが実際に経験した風景をもとに描いたことを日記に書き残しています。ムンクの見た赤い空は大噴火によって染められたものだったのかもしれません。

 

参考文献

小島憲道ら、色と光の科学、講談社(2023)

岩坂泰信、火山噴火と気候、天気(2013)