不思議を科学する

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赤い魚は深い海に棲む

赤い魚は深い海に棲む

 

 浅い海は明るく水温も高いので、エサとなるプランクトンも豊富で、魚たちにとっては住みやすい環境です。ただし、多くの魚が同じ場所に棲み、競争も熾烈です。さらに捕食者は水中にいる大型の魚だけでなく、上空から鳥も襲ってきます。

 一方、深い海は暗く水温が低いのでエサが少なく、過酷な環境です。でも競争相手や捕食者も少ないので、この厳しい環境に適応できさえすれば棲みやすい場所になります。

 深い海に棲み魚は、コンクリートの隙間やアスファルトの裂け目に生えている雑草に例えることができます。水や養分は限られていますが、ライバルは少なく、必要な光を独り占めにすることができます。

 深い海に棲む一部の魚の色が赤いのは生存戦略の一環です。魚の色には、主に標識色と隠ぺい色の二つがあります。

標識色は派手な色でよく目立ち、敵に対して警告を発します。毒をもつ魚などが、「近づくと危険だ」とか「食べてもまずいよ」と知らせることによって、身を守っているのです。

 隠ぺい色は、周囲の環境に似せた色や模様を持つことによって、敵から見つかりにくくしています。サンゴ礁では鮮やかな色の熱帯魚がいますが、色とりどりのサンゴの中では背景に溶け込み、かえって目立ちにくいのです。深い海に棲み魚の赤い色も隠ぺい色です。

 赤色の魚は、マダイ、キンメダイ、ノドグロなどたくさんいますが、それらの多くは深い海に棲んでいます。マダイは30~200メートル、キンメダイは200~800メートル、ノドグロは100~200メートルあたりにいます。

 浅い海では赤色は目立つので、捕食者から見つかりやすくなります。また、逆にエサとなる魚を捕らえるときも、目立つと逃げられてしまいます。なぜ深い海に棲む魚は赤色をしているのでしょうか。

 およそ水深10mまでの間に赤い光は水にほとんど吸収されてしまって届きません。つまり深い海の中には赤い光はないのです。水深200メートルを超えると、黄色い光や緑の光も吸収されて、青い光だけになります。

 赤い色をしていても赤い光がなければ赤くは見えずに、黒く見えます。深い海では赤い色は暗い海に溶け込み目立たない色なのです。

 興味深いことに、マダイなどの一部の魚は赤い色素を自ら作ることができません。体が赤くなる理由は、エビやカニを食べ、それらに含まれるの赤色の色素である「アスタキサンチン」を吸収し、蓄積するためです。

 

参考文献

大島範子、魚の体色とその変化:メカニズムと行動学的意義、色材協会誌(2016)

https://www.zukan-bouz.com/syu/(2023年10月17日アクセス)