不思議を科学する

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なぜヨーロッパの瓦は赤く日本の瓦は黒いのか

 宮崎駿監督のアニメ映画『魔女の宅急便』で、主人公キキが住むようになったコリコの町の家々は、白い壁と赤い屋根が印象的です。海に臨む丘の上に立つ家の赤い屋根瓦は、温暖で光あふれる気候に合った明るくエキゾチックな雰囲気を醸した出しています。

 日本では沖縄の屋根が赤色ですが、その他の地域の古い家の屋根は黒い瓦です。南ヨーロッパや沖縄ではなぜ赤い瓦が使われているのでしょうか。

 最近の瓦はコンクリートで作られているものもありますが、古くから使われてきた瓦は粘土を焼いて作られたものです。

 赤い瓦は、粘土で形を作り、乾燥させてから窯で素焼きされます。土に含まれる鉄分が焼くときに酸化して赤く発色します。レンガや植木鉢が赤い色になるのと同じです。素焼きの瓦は吸水性が高く、黒い瓦ほど熱を吸収しない特徴があり、暖かい地方で主に使われてきました。

 日本の黒い瓦には2種類あり、燻(いぶ)し瓦と釉薬(ゆうやく)瓦です。

 一般に使われていたのが燻し瓦です。焼き上げの最後に無酸素状態にし、燻すことによって表面に炭素の膜を付けます。炭素膜は水を吸収しにくい特徴があります。水を吸いやすいと凍結により傷みやすくなるので、寒い地方では水を吸収しにくい燻し瓦が使われました。

 燻し瓦は、最初は黒色(銀色)をしていますが、表面の炭素の膜が年月の経過とともに剥がれてきて色が徐々に変わっていきます。古い家屋の屋根瓦の色が一枚一枚微妙に異なっていますが、これも燻し瓦の特徴です。表面の炭素の膜が剝がれてくると水がしみ込みやすくなります。

 釉薬瓦は素焼きの瓦に釉薬をかけて焼き、皮膜を作って耐久性を向上させます。釉薬は陶磁器などの表面をガラス質にするためにかける薬品のことで、表面をなめらかにし、水が浸透しないようにすることができます。普段使っている皿やカップの表面がつるつるしているのは釉薬が塗られているからです。

 釉薬瓦も、耐久性が高く水分を通さないので、凍結による劣化を防ぐことができます。さらに釉薬の成分を変えることにより、黒だけでなくさまざまな色の瓦も作れます。

 このように赤い瓦と黒い瓦が使われてきた場所の違いは、その地域の気候と関係があります。しかしそれだけではなく、南ヨーロッパの人たちは赤い瓦の明るい印象を好み、日本人は黒い瓦の落ち着いた雰囲気を好んだのかもしれません。

 

参考文献

森田一弥、職人目線の京都行脚 瓦編、三洋化成ニュース(2021)