不思議を科学する

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ネコやイヌはなぜ色の識別が十分にできないのか

 眼球の奥の網膜には光を感じ取る視細胞とういう細胞がたくさんあります。視細胞は2種類あり、桿体(かんたい)と錐体(すいたい)です。

 桿体は弱い光にも反応する感度の高い細胞です。日没後の薄暗い中、月明りや星明りなどの暗い中で物を見るときに働きます。一方、錐体は強い光にも反応する感度の低い細胞です。昼間や照明に照らされていて明るいときに働きます。今、この文章を読んでいるときも十分に明るいので錐体が働います。

 人の錐体はさらに3種類に分けることができます。赤い光によく反応する細胞(赤錐体)、 緑の光によく反応する細胞(緑錐体)、青い光によく反応する細胞(青錐体)です。これらの3種類の錐体があるので人は色の識別ができるのです。

 3種類の錐体を持っていることを3色型と呼んでいます。2色型は錐体が2種類しかない場合で、識別できる色が3色型より少なくなります。4色型は錐体が4種類あり、3色型よりたくさんの色を識別することができます。哺乳類以外の多くの脊椎動物4色型で、赤錐体、緑錐体、青錐体以外に人の目には見えない紫外線に反応する錐体を持っています。

 哺乳類が最初に現れたのはおよそ2億3000万年前の恐竜が栄えていた時代です。そのころの哺乳類はネズミのような小型の弱い動物であったので、恐竜が活動する昼間を避けて、おもに夜活動する夜行性でした。もともと哺乳類も4色型でしたが、夜行性になったため主に桿体を使って物を見ていました。そのため錐体が退化して赤と青の二種類(2色型)になりました。暗い中では、色を識別するより暗い中でも物が見える桿体を発達させたのです。

 その後、恐竜が滅び、哺乳類が昼間活動するようになっても2色型のままでした。一度失った色覚を取り戻すのは難しいようです。ただし、霊長類では、赤錐体が赤錐体と緑錐体に分かれたことにより、3色型となりました。

 捕食動物の少ない木の上に棲むようになったサルは、木の実を主食にしています。緑の葉と熟した赤い実を識別しやすいとたくさんエサを採ることができます。そのために色覚を発達させたと考えられています。

 昆虫をエサとする一部のサルは2色型のままです。多くの昆虫は保護色であるので、明るさの差や形から昆虫を見つけることになりますが、一般に3色型より2色型の方が明るさの差や形に敏感だからです。

 ライオンやトラのような肉食動物も2色型ですが、獲物となる動物は目立ちにくい色をしているので、2色型でも見つけることに劣ることはないようです。草食動物もエサとなる草が身近にたくさんあるし、捕食動物も目立たない色をしているのでるので、3色型が有利になることはありません。

 このような理由から哺乳類の中で木の実を主食とする霊長類のみが2色型から3色型に進化していきました。そして、肉食動物であるネコやイヌも2色型で、色の識別は十分にできないままなのです。

 

参考文献

更科功、禁断の進化史、NHK出版新書(2022)