不思議を科学する

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2億年前のジュラ紀は色に乏しい世界 -美しい花も紅葉もない-

 2億年前、恐竜が栄えていたジュラ紀(2億年前~1億4千500万年前)が始まるころに地上を覆っていたのは、裸子植物でした。裸子植物は、現在のイチョウやソテツの仲間で、受粉後に種子になる胚珠がむき出しになっています。裸子植物の花は風で花粉を運ぶ風媒花なので、マツやスギと同じようにように美しい花を咲かせることはありません。

 白亜紀(1億4千500万年前~6千600万年まえ)になって出現したのが被子植物です。被子植物は、胚珠が子房の中にあり、裸子植物のようにむき出しになっていません。子房は受紛後に果実になる部分です。

 被子植物の花は、おもにハチなどの昆虫の力を借りて花粉を運んでもらう虫媒花です。花粉を運ぶ虫はエサとなる花粉や蜜を求めて花に寄ってきます。植物の方も昆虫に花粉や蜜のありかが分かりやすいようによく目立つ色の花を咲かせます。そして、それまでの植物は大木中心でしたが、白亜紀の終わりころになると、被子植物の草が発達しました。1年から数年で枯れていく背丈の低い草も色とりどりの美しい花を咲かせるようになりました。

 植物が果実をつけるようになったのも白亜紀になってからです。恐竜から進化した鳥類が現れたのもこのころです。果実を実らせることによって、それを食べる鳥などが果実の中にある種子を遠くまで運んでくれるようになりました。果実が熟すると赤や黄色の目立つ色に変わることで、鳥に見つけてもらいやすくなります。

 動けない植物は動物の力を借りて、花粉や種を遠くに運び、分布を広げていきました。このような仕組みをもった植物がその後大いに繁栄していったのです。

 落葉樹が誕生したのは白亜紀の終わりです。そのころ地球が寒冷化していったので、木は寒さに耐えるために冬に葉を落とすようになりました。葉が落ちる前の秋には、緑の葉は紅葉(黄葉)し、山や森は鮮やかな色に染まります。

 2億年前のジュラ紀は、植物が色とりどりの花を咲かせることはなく、赤や黄の果実を実らせることもなく、そして秋になっても紅葉することもありませんでした。そのころ地上に君臨していた恐竜は色覚が発達していて、人以上に色の識別ができたと考えられています。しかし、恐竜が目にしたものは、おもに緑の葉をつけた裸子植物と青い空であり、色に乏しい世界だったことでしょう。

 

参考文献

稲垣栄洋、生物に学ぶ敗者の進化論、PHP文庫(2022)