不思議を科学する

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生まれたばかりの赤ちゃんは色が見えない

生まれたばかりの赤ちゃんは色が見えない

 

 わたしは生まれてから2歳になるまでの記憶がありません。おそらく3歳くらいのだと思いますが、家の中の風景や両親の話す声をかすかに思い出すことができます。そのころにはすでに目が見え、耳が聞こえていたのでしょう。私たちは、いつ頃から大人と同じように身の回りのことを知覚できるようになるのでしょうか。

 生まれたばかりの赤ちゃんの視力を検査すると0.02くらいです。視力検査票の一番上にあるCの形をした視標(ランドルト環)の切れ目の向きがやっとわかるのが視力0.1です。視力0.02というと、視力0.1の5倍の大きさのランドルト環にならないその切れ目の向きが分からないということです。それは母親に抱っこされているとき母親の眼や鼻の位置がどこにあるか分かる程度です。

 生後間もない赤ちゃんには人見知りがありません。しかし、生後半年ほどすると人見知りをするようになり、知らない人に抱っこされると泣き出します。生後6~7ヶ月もすると視力も0.1を超えます。そうすると母親と他の人の顔との区別がつき始めるのです。

 生まれた時点で、目は器官としてほぼ完成しています。しかし、水晶体(レンズ)の厚みを変え、焦点を調整するのがうまくできません。したがって、そもそも網膜にピントの合った像が結ばれていないのです。また、生後しばらくの間は、目でとらえた情報が脳でうまく処理できていません。

 脳波などを測定することにより、赤ちゃんの色の見え方が調べられています。それによると、生まれてしばらくの間は黒と白がぼんやりと見える程度だそうです。赤と緑の区別は生後6週間でできるようになり、青と黄の区別ができるのは生後4~8週間後です。紫、オレンジ、ピンクなど他の色の区別にはさらに時間を要します。

 ライオンなどの捕食動物からいつも狙われ、危険にさらされているシマウマのような草食動物の子は、生まれてすぐに立ち上がり、歩きます。敵から逃げる力を身につけ始めるのです。一方、人の赤ちゃんの場合、歩けるようになるのは1歳くらいです。個人差がありますが、とても長い時間が必要です。

 歩くのと同じように、形や色を知覚できるようになるのも時間がかかります。ほかの感覚器官を含め、人は生まれてから成長するのにしたがって身体能力をゆっくり完成させるのです。人の赤ちゃんは親に守られており、敵から襲われる可能性が低かったことと関係していそうです。

 

参考文献

山内留美、乳幼児の視覚の発達について、光学(2006)