不思議を科学する

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昆虫の複眼を構成する個眼の数と動く速さの関係

昆虫の複眼を構成する個眼の数と動く速さの関係

 

 自然界では、高度な目があればエサとなる動物を容易に見つけて捕らえることができます。また食べられる方の動物も敵をいち早く見つけて逃げることができます。しかし、速く動けない動物が目を発達させてもその利点を活かせません。動く速度が遅いと、せっかく目を使ってエサも見つけても逃げられてしまいます。また食べられる方の動物も、敵をいち早く見つけても逃げることできません。

 したがって、動きの速い動物ほど目は高度です。例えば、空を高速で飛ぶ鳥は高い視力を備えています。

 一方、ほとんど動かない動物は目を持っていないか、持っていても単純な目です。例えば、サンゴやフジツボがそうです。ただし、フジツボも子供のころは水中を漂いながら固着する場所を探すので形や色の分かる目を持っています。そして岩場などに固着すると動かなくなるので、必要のない目を失うのです。大人のサンゴは光を感じ取ることはできませんが、子供のころは光の強弱を感じることができます。サンゴの子供も生まれてからしばらくの間は水中を漂い、光のよく当たる場所を選んで固着します。サンゴ自身は光合成をしないので光を必要としませんが、光合成をする藻類と共生していて、それから栄養をもらっているからです。したがって一般的なサンゴは光のよく当たる浅い海でないと生きていけません。

 動物の目は大きく分けてカメラ眼と複眼です。脊椎動物の目はカメラの構造と似ているカメラ眼です。一方、昆虫の目は多くの個眼で構成された複眼です。複眼は、一般に個眼の数が多いほど視力がよくなります。

 昆虫の個眼の数は文献によって多少の差はあるのですが、概ね表1のとおりです。

 

 表1 昆虫の複眼を構成する個眼の数

地中で生活をするアリの1種6~9個

アブラムシ10~20個

アリ100~600個

ホタルのメス300個

オス2,500個

ショウジョウバエ1,000個

エバエ4,000個

ミツバチの女王バチ3,000~4,000個

働きバチ4,000個~5,000個

オス7,000~9,000個

アゲハ12,000個

チョウやガ10,000~20,000個

トンボ10,000~20,000個

 

 表1をみると、体の大きな昆虫ほど個眼の数が多くなる傾向にあります。また、個眼の数が多い昆虫ほど動く速度が速くなる傾向にもあります。動きの遅いアブラムシやアリの個眼は少なく、飛ぶ速度の速いチョウやトンボの個眼はたくさんです。ホタルの雄は飛び回りながら雌を探しますが、雌は地上にいてあまり動きません。そのせいかホタルのメスの個眼が300個であるのに対して、オスの個眼はずっと多く2500個もあります。ミツバチもオスや働きバチ(メス)に対して活動の少ない女王バチは個眼の数が少なくなっています。

 昆虫にしてもほかの動物にしても、速く動く動物は高度な目を有する傾向にあるようです。目の構造は複雑でエネルギーをたくさん消費するので、高度な目を維持するのはその動物にとってかなりの負担が生じます。それに見合うメリットがある場合だけ目を発達させるのです。それにはまず早く動けることが必要なのです。

 

参考文献

後閑暢夫、昆虫の複眼の構造、植物防疫(1977)