不思議を科学する

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視力の悪いテントウムシが餌である小さな虫を見つけることができるわけ

 ヤナギルリハムシは黒い色をした体長約4ミリメートルの昆虫です。幼虫も成虫もヤナギの葉を好んで食べます。

 このヤナギルリハムシの幼虫をエサとしているのがカメノコテントウです。カメノコテントウは、日本にいるテントウムシで最大級の大きさで、約1センチメートルです。翅に赤と黒の模様がありますが、その模様が亀の甲羅に似ています。

 カメノコテントウなどのテントウムシの眼は、ほかの昆虫と同じように複眼です。複眼は動きに対して敏感です。高速で空を飛ぶ昆虫は動きに対して敏感な眼が必要です。また、複眼は視野が広いという特徴があります。

 一方、複眼の欠点は視力が悪いことです。テントウムシの視力は0.01もありません。視力0.01というと、1メートル先の3センチメートルのものがやっと区別できる程度です。まわりがぼんやりと見えているだけです。

 卵から孵ったばかりの幼虫の大きさは1ミリメートルほど。蛹になる前の老齢幼虫でも約5ミリメートルしかありません。カメノコテントウが目で小さなヤナギルリハムシの幼虫を見つけるのは至難の業です。どのようにして小さな餌を見つけているのでしょうか。

 植物のコミュニケーションについて研究をしている京都大学の高林純示氏によると、ヤナギの葉がヤナギルリハムシの幼虫に食べられると葉から特殊な匂い物質を放散するそうです。その匂いを頼りにカメノコテントウはヤナギルリハムシの幼虫を見つけることができるのです。

 動物も植物もいろいろな手段で天敵から身を守っています。ヤナギの木はヤナギルリハムシに葉を食べられるのを防ぐために、匂いによりカメノコテントウを呼び寄せているのです。カメノコテントウが来てヤナギルリハムシを退治してくれなければ、ヤナギは葉が食べつくされ枯れてしまうかもしれません。

 カメノコテントウなど昆虫の多くは、悪い視力をカバーするために、鋭い嗅覚を備えています。それでヤナギは独特の匂いをだし、ヤナギルリハムシがいることをカメノコテントウに知らせことができるのです。