不思議を科学する

不思議を科学する

緑色の葉をなぜ青葉と呼ぶのか

 アマゾン川の支流、熱帯雨林の奥深くに住む先住民が話す言葉や南の孤島に住む少数民族が話す言語には、色を表わす言葉が二つしかないそうです。それは白と黒です。それ以外に色は白か黒のどちらかに含まれます。他の色を区別しなくても生活をしていく上で困らないということのようです。

 現在の日本語には色を表わす言葉が数え切れないほどあります。赤とそれに近い色を表わす言葉だけでも優に10を超えます。たとえば、深紅 (しんく)、紅色 (くれないいろ)、薔薇色 (ばらいろ)、紅赤 (べにあか)、茜色 (あかねいろ)、唐紅(からくれない) 、ワインレッド、ルビーレッドなどです。それらの色の差はほんのわずかであり、並べて見てやっと違いが分かる程度です。

 文化の発達とともに言語も発達していき、色を表わす言葉の数も増えていきます。一般に白と黒だけだった色の名前に、最初に加わる色は赤です。その後、緑、黄、青のユニーク色が加わっていきます。黄緑は黄色と緑が混ざったと感じる色で、紫は赤と青が混ざったと感じる色です。混じりけを感じさせない純粋な色をユニーク色と呼んでいますが、ユニーク色には赤、黄、緑、青の4色しかありません。それ以外の色は、すべてこれらのユニーク色が混ざった色として知覚されます。

 色の名前にユニーク色が加わった後、茶、紫、ピンク、灰、オレンジなどが加わっていきます。現在、広く使われている英語、フランス語、中国語などの言語には、どれにもたくさんの色を表わす言葉があります。

 日本語も古代には、色を表わす言葉が4つしかなかったと言われています。それらは白、黒、赤、青です。その頃の青に現在の緑も含んでいました。熟していない緑色の果実を「青い」と形容したり、緑の葉を青葉と呼んだりしているのもそのなごりです。布の染色、陶磁器の絵付けなどに様々な色が使われるようになると、それぞれの色を表わす言葉が必要になります。そのようなこともあって日本語にも色を表わす言葉が増えていったと考えられます。

 イヌイットは白色に相当する言葉を何十も持っているそうです。イヌイットはカナダ北部などの氷雪地帯に住む先住民族です。1年のうちの多くの期間、雪と氷の白い世界に住んでいるので白に対する感覚が鋭くなったのでしょうか。厳しい自然のなかで生きていく上で微妙な色の差を感じ取り、区別する必要があったのかもしれません。

 しかし、一般の社会で数え切れないほどたくさんの色に名前を付け、微妙な色の差を区物する必要がどこまであるのでしょうか。塗られた色は時間がたつにつれて褪せていきます。色名の多さは生活を複雑にしているだけのような気もします。

 

参考文献

内川恵二、色覚のメカニズム、朝倉書店(1998)