不思議を科学する

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ハエがテレビを見たらどんな風に見える?

 水洗トイレが普及するなどして、ハエが繁殖できるような場所がなくなったせいでしょうか、最近ハエを見かけることは少なくなりました。昔の田舎ではどの家にもハエがいて、天井や壁にとまっていました。ハエを取るためにハエ取り紙を天井からぶら下げていたものです。

 ハエなどの昆虫は複眼であり、人などのカメラ眼とは仕組みが大きく異なっています。したがって見え方も随分と違っています。もしハエがテレビを見ているとしたら、どんなふうに見えているのかを例に説明してみましょう。

 家の中でリビングの壁に1匹のハエがとまっていて、反対側の壁の前にはテレビがあり、画像が映し出されているとします。このハエにはテレビの画像がどのように見えているのでしょうか? 人と比べたとき、ハエの目の特徴として以下の3つを挙げることができます。

 まず高速に動くものが見えるということです。人の場合、光が1秒間におよそ40回より早く点滅を繰り返すと点滅が分からなくなり、一定の明るさで点いているように見えます。しかし、ハエの場合は1秒間に140回まで点滅しているのが分かるのです。テレビは1秒間に60コマの速さで画像が切り替わっていきます。人の目には画像が連続して移り変わるように自然に見えます。しかし、動きに対して敏感なハエの目には、静止画像が次々と切り替わっていくように見えることでしょう。

 二つ目に、視力が悪いということです。視力はおよそ0.01で、人の100分の1くらいです。人の目ですと、3メートル先の1ミリメートルのものが区別できます。しかしハエの目では、3メートル先で区別できる大きさは10センチメートルくらいになります。テレビの画像がただぼんやりと見えているだけです。人が映っていても何か動くものがいることが分かる程度です。とても顔が分かるなどということはないでしょう。

 最後に、色の見え方が異なります。ハエには赤色が見えません。正確に言うと赤い光に対して感度がないので光を反射しない黒い色と同じに見えます。赤い花がテレビに映っていたとしても、それは黒ずんだ色として見えていることでしょう。

 人とは大きく異なりハエにとっては、このようにテレビの画像が奇妙に見えていることでしょう。なぜ人がテレビというものを見ているのか、ハエは不思議に思っているかもしれません。

 

参考文献

木下充代、アゲハが見ている「色」の世界、比較生理生化学、Vol.23-4(2006)

入倉、奇想天外な目と光のはなし、雷鳥社(2022)