不思議を科学する

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虫の目は「虫の目」ではない

 「鳥の目」、「虫の目」、「魚の目」に例えて、三つの視点を持つことが、仕事をするうえでも生きていく上でも重要だと言われることがあります。

 三つの視点の中でも最もよく使われる「鳥の目」は、鳥が上空から広い範囲を見ていることから、全体を俯瞰的に見渡し、視野を広くすることを意味します。何かに熱中していたり、困難な状況に直面したりすると、周りが見えにくくなりがちです。そのようなときに「鳥の目」の視点を持つことの重要性が語られます。鳥は、高く飛べば飛ぶほど見渡せる範囲は広くなります。中でもインドガンヒマラヤ山脈を飛び越えます。この鳥はそんなに高く飛んで何を見ているのでしょう。

 「魚の目」は、魚が潮の流れを捉えることから、時流をつかむ視点をもつことの例えとして使われています。もっとも魚が潮の流れを捉えているのは目ではなく側線という器官です。側線は魚の体の横に点状に並んでおり、それで水流や水圧を感じ取っています。魚の大群がお互いにぶつかることなく縦横に泳ぎまわることができるのも側線のおかげです。

 「虫の目」は、近くから細かいものを見るということから、ミクロな視点で物事を捉えるという意味です。また、「虫の目」にはもう一つの意味があり、複眼で多面的に捉えるということでも使われています。

  虫は地面や草の上で物を近くで見ていますが、視力が悪く、人の目の100分の1かそれ以下しかありません。人の視力は1.0ほどですが、虫の視力は0.01程度です。視力表の一番上のランドルト環(アルファベットCのような図形)は視力0.1です。昆虫の目ではさらにその10倍大きいランドルト環の切れ目が見えるかどうかです。とても細かいものが見えているとは言えません。

 また、複眼はたくさん(多いもので数千から数万個)の個眼で形成されていますが、各個眼からの情報を集めて一つの像を作っています。テレビの画面が小さな点(ピクセル)が100万個以上表示されていますが、それらが集まって一つの画像を作っているのと同じです。決して違う角度からの像がたくさん見えているわけではありません。

 虫の目は、高速で動くものを見ることができます。変化を捉えるのが得意なのです。そういう意味では「魚の目」に近い特徴があります。また虫の目は視野が広い。トンボの目はほぼ360度見ることができます。虫の目は「鳥の目」でもあるのです。

 

参考文献

V.B.マイヤーロホ、動物たちの奇行には理由がある、技術評論社(2009)