大型船やタンカーは多くの場合、上下2色に塗り分けられています。特に下側に塗られている赤い色はよく目立ち、大型船の目印のようになっています。上側の色は決まっていませんが、黒く塗られていることが多いようです。
船が水面と接する境界線が喫水線(きっすいせん)です。積み荷を増やすと船はその分だけ沈むので、喫水線は上昇します。船にはこれ以上荷物を積んではいけないという限界があり、その積み荷のときの喫水線を満載喫水線と呼んでいます。赤く塗られているのは満載喫水線より下の船底側です。したがって、下側の赤色が大きく見えているときは、積み荷を降ろした後などで、荷物が少ない状態です。
ところで、なぜ満載喫水線より下側を赤色に塗っているのでしょうか。
それには磯の岩場でよく見かけるフジツボという生き物が関係しています。
フジツボは富士山のような形をした殻をもっているのでその名前が付きました。形から貝の仲間のように見えるのですが、エビやカニと同じ甲殻類です。岩や岸壁に一度固着すると移動することができなくなります。
卵から孵化したフジツボの子供は目を持ち自由に泳ぎ回ります。その後、動かなくても繁殖できるよう仲間を見つけてその近くに固着します。その後は動かないので、必要がなくなった目が退化し、ほとんど見えなくなります。
このフジツボが固着するのは岩や岸壁のコンクリートだけではありません。船が港に停泊している間に船底にもつきます。フジツボが船底につくと、船が進むときの抵抗が増え、スピードが落ち、燃費が悪くなります。吸着力はとても強いので、固着したフジツボを取り除くのは至難の業です。このためフジツボの付着は昔から船乗りの悩みの種でした。
それでフジツボがつかないようにいろいろな対策が試みられてきました。銅板を被覆したり、漆を主体とした塗料を塗ったりしていました。第二次世界大戦後からは、亜酸化銅を主とした塗料が現在まで使われています。この塗料によりフジツボの付着を効果的に防ぐことができるようになりました。この塗料に含まれる亜酸化銅の色が赤いので、大型船やタンカーの下半分が赤色をしているのです。
塗った塗料は徐々に溶けてゆき、タンカーの場合は1年で塗りなおさなければなりません。1回の塗装の費用は数百万円もかかり、船主にとっては大きな負担となっています。
参考文献
銅が海生生物の付着を防ぐ 船底を守る赤い塗料、銅誌(2016)