不思議を科学する

不思議を科学する

点滅すると時間がゆっくり経過する

 入試の監督をすることがありますが、残り時間が10分になると受験生に合図をすることになっています。その合図をしてから終了までの10分間はとても長く感じられます。しかし、まだ解答が終わっていな受験生にとっては、おそらくその10分間がアッという間に過ぎてしまうことでしょう。

 このように状況によって人が感じる時間経過の速さは大きく変化します。学生時代に、授業が休講になると近くの雀荘で麻雀をしましたが、講義を聴いているときとでは比べものにならないくらいに速く時間が過ぎていきました。一般に時間の経過は、楽しいときが苦しいときよりも速く、そして忙しいときが暇な時より速く過ぎ去るように感じる傾向があります。また、歳を取るとともにだんだん時間が速く経過していくように感じます。小学生の頃の一月間の夏休みは、楽しかったのにもかかわらずとても長く感じたのを覚えています。

 それでは、光の条件によって時間感覚が変わることがあるのでしょうか。

 東京大学の四本裕子氏は時間についてユニークな研究をしています。彼女の実験によると、パソコンに映し出されたチカチカと点滅する画像を見ているときは、点滅せずに一定で映し出されている画像のときよりも、時間が長く感じられるという結果が示されています。1秒間に 11回点滅するときが最も時間の経過を遅く感じ、点滅していないときに比べて1.2~1.3倍になるそうです。

 音を聞く場合も同じでしょうか。1秒間にONとOFFを11回繰り返す音(トゥトゥトゥトゥという音)を聞かせると、今度は時間が早く過ぎ去るように感じられます。つまり、光の点滅と音のON・OFFが時間感覚に逆の効果に及ぼすのです。

 光を感じる器官は目であり、音を感じるのは耳です。味にも臭いにもそれぞれ感覚器官があります。しかし、時間の経過や速さを感じることはできるのに、どの器官が感じとっているのかはっきりしません。ひょっとしたら時間を感じ取る器官はないのかもしれません。

 異なる感覚は相互に影響を及ぼし合います。たとえば、見た目や匂いにより味覚は変わることが知られています。それと同じように光や音の変化が時間感覚に影響を与えることが明らかになってきました。しかし光や音がなぜ時間感覚に影響を及ぼすのかはまだわかっていません。時間感覚と他の感覚とは、仕組みがまったく異なるのかもしれません。

 

参考文献

川端裕人、科学の最前線を切りひらく!、ちくまプリマ―新書