不思議を科学する

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本を左右に振ると文字が読めないけれど、頭を左右に振ったときは文字が読めるのはなぜ

 本を開いてゆっくり左右に振ってみてください。書かれている文字を読むことができるはずです。そして振る速度をだんだんと速めると、ある速さから文字が読めなくなってきます。

 今度は本を固定しておいて頭をゆっくり左右に振ってみてください。文字が読めます。だんだん速くしていってもまだ文字は読めます。本を速く振ると文字が読めなくなるのに、頭を速く振っても読めるのはなぜでしょう。

 人の眼球の外側には外眼筋という筋肉が6本付いていて、それを収縮することによって眼球を回転させています。外眼筋によって眼が動くことを眼球運動と言います。眼球運動にはいくつか種類があります。

 本をゆっくり左右に振ったとき、左右に動く文字を追従するように動く眼球運動を滑動性眼球運動といいます。対象の運動速度が30°/秒程度までは追従可能です。速度が30°/秒を超えると追従できなくなります。本を速く振ると文字が読めなくなるのはこのためです。

 一方、頭を左右に振ったときは、頭部の移動方向とは反対方向に自然に眼球が移動します。頭の動きに連動して眼球が回転する仕組みがあります。この眼球運動を前庭動眼反射といいます。これにより対象を注視している状態で頭部を動かしても対象を注視しつづけることができます。頭を左右に速く振っても文字が読めるのはこのためです。

 前庭動眼反射は耳の奥(内耳)にあって、回転加速度を検出する「半器官」という器官からの信号で生じる反射です。歩いたり走ったりするときに足の動きに合わせて頭が上下左右に動きますが、それに合わせて目が回転します。頭と目は協調的に動いて、視線を安定させることができるのです。

 人の目の前庭動眼反射を応用した機能が最近のカメラについています。手ぶれ補正機能です。昔使っていたカメラには手ぶれ補正機能がなかったので、せっかく撮った写真を手ぶれでぼやけていてがっかりしたものです。カメラの手ぶれ補正機能では、シャッターを押すときにカメラの動きを検知し、その動きを打ち消すように撮像素子を動かしています。これにより手ぶれを気にせずに写真を撮ることができるようになりました。

 カメラの手ぶれ補正機能は、人の目の前庭動眼反射に比べまだまだ性能が劣るようで、速い動きには十分対応できていないようです。人の目にはものをよりよく見るための機能がたくさん備わっていますが、前庭動眼反射もその一つです。