不思議を科学する

不思議を科学する

ストレスを高める光

 現代の夜、屋内は格段に明るくなりましたが、屋内だけでなく屋外も明るくなりました。

 街の明かりには、白くて強い光が使われています。また、点滅する光が多用され、電子看板デジタルサイネージ)による動画が表示され、注意を引く光であふれています。気持ちが落ち着き、リラックスできる光環境からはほど遠いものです。ひと昔前は、家の窓からこぼれてくる光や街灯の光が街を照らしていました。それらの灯には暖かみと安心感がありました。しかし、最近の光は白熱電球や蛍光灯からLEDに代わるとともに、照らす光から見せる光になり、光源からの光が直接目に届くようになっています。強い光を見ることになり、目が休まるときがありません。

 2004年に景観法が制定され、それに基づき多くの都市で景観計画が策定され、景観行政が進められています。視環境の研究を行っている名古屋市立大学の原田らは、景観計画策定済の95の主な自治体について照明に係る基準について調査をしています(文献1参照)。それによると、多く(68自治体)が照明に関する何らかの記載をしていますります。その中で光の制限に関しては、「過度でない光量とする」ことを記載している自治体が34、「点滅光、動光、回転灯、閃光を制限」を記載している自治体が39にも上ります。このようにかなりの自治体において、明るすぎる光や点滅する光が街の景観にふさわしくないとしているのです。また、京都市では市内全域で点滅したり回転したりするタイプの照明広告などを禁止しています。

 しかし、現実を見ると、ほとんどの都市で明るすぎる光や点滅する光が街にあふれており、対策が十分とは言えません。

 通勤電車の中も白く、強い光で照らされています。2011年の東日本大震災後に間引き点灯されていたのがウソのような明るさです。

 九州大学の安河内朗氏は、光の色が脳波、心拍数、直腸温などへ与える影響を調べた実験結果を引用し、昼光色(白い光)は電球色(黄色味がかった光)より、交感神経活動を高め、夜の照明光としては余分な緊張をもたらすことを指摘しています(文献2参照)。交感神経は生体を活動的にする自律神経です。精神的ストレスや身体的ストレスが生じた場合は交感神経の活動が高まります。また最近は、電車内でディスプレイに動画が映し出されており、ついついそれに目が引かれてしまいます。

 現代社会においてメンタルヘルスが問題となっています。昼間に受けたストレスを解消し、リフレッシュできるような夜の光環境が必要です。人の健康への影響を踏まえ、策定された景観計画にしたがって過度な灯や点滅する灯の制限を進めるとともに、公共交通機関の光環境についても対策を講じるときが来ているのではないでしょうか。

 

参考文献

(1)原田昌幸、他、景観法に基づく「景観計画」における照明に係る景観形成基準の分析、照明学会誌(2018)

(2)安河内朗、照明光に対するヒトの適応能―生理人類学からのアプローチ―、文部科学