不思議を科学する

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教会のステンドグラスが色褪せないのはなぜ

 ヨーロッパの古い教会に窓の装飾としてよくステンドグラスが使われています。たくさんの色ガラスを組み合わせて作られた絵や模様が、外からの光を透過して美しく見えます。

 世界遺産になっているスペインの教会サクラダ・ファミリアのステンドグラスは有名です。東側のステンドグラスは青色で、朝日に照らされると青い光が教会内へ射しこみ、西側のステンドグラスは黄色で、夕日に照らされると黄色い光が射しこむようになっています。時間とともに空間を満たす光の色が変わり、神秘的な景観を作っています。

 作られて数百年が過ぎた教会の壁画は色褪せ、くすんできます。そのような壁画のなかには修復されるものがありますが、修復前後では極端な言い方をすると白黒写真とカラー写真ほどの差があります。長い年月の間にそれほど色褪せてしまうということです。

 しかし、同じころ作られたステンドグラスの絵や模様の色は作成当時のままの鮮やかさです。壁画は色褪せるのに、なぜステンドグラスは色褪せないのでしょうか。

 絵の具で描かれた壁画は、光や紫外線が当たり、その一部が吸収されると、絵の具の中で化学反応が起こります。それにより絵の具は変化し色褪せていくのです。

 一方、ステンドグラスはガラスに金属の粒を混ぜて作られます。金属の粒はとても小さくて、1ミリメートルの1万分の1から10万分の1くらいの大きさです。混ぜる金属の種類によって異なる色を作ることができます。たとえば、赤色は金が、黄色には銀が混ぜられています。

 ガラスに金属の小さな粒を混ぜると発色するのは、プラズモン共鳴という物理現象によるものです。なじみのない難しそうな名前ですが、微小な世界で起こるこの現象により金属の小さな粒は特定の色の光を吸収し、それ以外の色の光を透過や反射します。金の粒は青や緑を吸収します。白い光から青や緑の光を取り除くと赤くなります。また、銀は青い光を吸収します。白い光から青い光を取り除くと黄色になります。

 このようにしてステンドグラスは特定の色を作り出しているのです。ガラスの中の金属の粒は時間がたっても劣化しません。そのため数百年前のステンドグラスによる絵や模様は当時のまま鮮やかな色を保っているのです。

 ステンドグラスと同じ手法で作られているものが、日本の伝統工芸にもあります。それは江戸切子などとして知られているカットグラスです。ステンドグラスと同じように切子も色褪せることはありません。

 

参考文献

納谷昌之、梅干しとひかり、オプトロニクス社(2022)

立間徹、ナノサイズの金属粒子で光と色を操る、生産研究(2012)