不思議を科学する

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パラボラアンテナで光を集めるフクジュソウ

 フクジュソウの話をする前に放物面鏡について説明しましょう。フクジュソウのユニークな特性は放物面鏡の性質を利用しているからです。

 物を投げたときに描く軌跡が放物線です。軸を中心にして放物線を回転してできる面を放物面と言います。テレビの衛星放送の受信などに使われているお椀のような形のアンテナは放物面でできていて、パラボラアンテナと呼ばれています。パラボラアンテナは飛んでくる弱い電波を反射させて中心の1点(焦点)に集め、強くすることができます。

 ある特定の方角の音だけを集めて拾うのが集音マイクロホンです。パラボラ型の反射板の焦点の位置にマイクロホンを取り付けたものです。夜に活動するフクロウはとても良い耳をしています。フクロウの丸い顔もパラボラアンテナのような形をしていて、顔を向けた方向の音を顔で集めて聞いています。

 表面を放物面にした反射鏡を放物面鏡と言います。パラボラアンテナと同じように光軸に平行に入射した光を焦点に集める性質があります。放物面鏡を太陽の方向に向ければ焦点に光や赤外線が集まり、そこが温められます。

 逆に放物面鏡の焦点に光源を置けば、反射光は光軸に平行な光線となります。遠方に行っても光が広がらない投光器(サーチライト)には放物面鏡が使われています。

 

図 放物面鏡は光を1点に集める

 

 フクジュソウは、福寿草と書きます。正月を祝う花としてそのおめでたい名がついたと言われています。旧暦の正月にあたる2月の早春に落葉樹の林の中で3~4cm位の黄色い花を咲かせます。日本では北海道から九州まで広く分布しています。

 2月はまだ寒く、落葉樹は葉を落としたままですし、他の草は地面の下に眠ったままです。妨げるものがなく、太陽の光は地上までよく届きます。フクジュソウはたくさんの光を独り占めすることができます。さらに、花、茎と葉を含めた地上部全体が、太陽の動きに合わせて回転し、花は常に太陽の方向を向いています。

 フクジュソウの花びらを合わせた花の形が、パラボラアンテナと同じ放物面になっています。いつも太陽の方向を向いているフクジュソウの花は、放物面鏡と同じように太陽の光や熱を反射させ、花の中心に集めることができます。そのため晴れた日は、花の中心の温度は周囲の気温より数度高くなっています。

 この熱により花の中心にあるおしべやめしべはまだ寒い2月でもよく育つことができます。フクジュソウは密を出しませんが花粉をたくさん作ります。花粉を餌とするハエやアブなどの昆虫を引き寄せ、花粉を運んでもらっています。

 花粉を求めて花に来た昆虫は、花の中心に集められた熱で体温が高まり活発に活動できます。餌だけでなく熱を与えることにより昆虫を引きつけているのです。