不思議を科学する

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生活に役立つ錯視

 「これどっちが長く見える」。子供の頃、友達が見せにきた図には、線分の両端に内向きの矢羽を付けたものと外向きの矢羽を付けたものとが描かれていました。明らかに外向きの矢羽を付けたものが長く見えたが、実際は同じ長さ。これが錯視図を見た最初の経験であり、不思議に感じたことを覚えています。

 実際より長く見えたり、塗られていない色が見えたり、止まっている図が動いているように見えたりなど、錯視にはたくさんの種類があります。ただその多くは興味深いけれど、何かに役立っているということはありません。しかし、錯視の中には普段の生活に使われているものもあります。

 図1の左の内側の丸の方がと右の丸より大きく見えますが、同じ大きさです。アイラインは左の外側の丸の役割をするので実際以上に目を大きく見せることができます。図2のようにすその広がったスカートは足を細く見せます。このように化粧や服に錯視がよく使われています。

図1 左の図の内側の丸の方がと右側の丸より大きく見えますが、同じ大きさです。

 

図2 すその広がったスカートは足を細く見せる

 

 化粧や服についてはすでに多くの雑誌やテレビで頻繁に紹介されているので、ここではこれ以上取り上げないことにします。

 次の例は建物に使われている錯視です。実際以上に建物を高く、大きく見せることができます。その中でも有名なのがディズニーランドのシンデレラ城です。建物を下から見上げたとき、同じ大きさの窓でも高いところほど小さく見えます。シンデレラ城のレンガや窓は、上に行くほど徐々に小さく作られています。これらにより城を実際以上に高く見せる効果があります。「強化遠近法」と呼ばれている手法です。東京の学士会館などの一般の建物の窓にも同じ手法が採り入れられています。

 これと似た錯視で、柱の太さを位置により変える方法があります。寺院などの柱の中には、下の方を太くし、上に行くほど細くしたのがあります。寺の中でこの柱を見上げたとき、実際以上に天井を高く感じます。これにより荘厳さが増すことをねらっているようです。

 最後の例が食べ物に関するものです。皿やグラスによって量が多くなったり少なくなったりして見えます。図3の描かれている二つの黒丸を比較してください。右側の黒丸の方が左側の黒丸より大きく見えますが、実際は同じ大きさです。同じ料理を大きい皿にのせるよりは小さい皿にのせる方が、料理が大きく見えます。また飲み物は、背の低いグラスより細くて背の高いグラスに入れる方が量を多く感じます。レストランで料理を出すときにこれらの錯視が使われています。また、ダイエットしたい人はこの効果を使って自らをだますとよいかもしれません。

図3 右側の黒丸の方が左側の黒丸より大きく見える