不思議を科学する

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地平線近くの月は大きく見える

 月と太陽はほぼ同じ大きさに見えます。実際は太陽の方が月より400倍大きいのですが、地球からの距離が、太陽が月に比べて400倍遠いのでほぼ同じ大きさに見えます。これはまったくの偶然と考えられますが、何か不思議な気がします。

 では、月や太陽の見かけの大きさはどのくらいでしょうか。腕を伸ばしたときに手に持ったテニスボールの大きさ位でしょうか。それとも5円玉の大きさ位でしょうか。実際の大きさは、5円玉の穴の大きさとほぼ同じです。思っていたよりずっと小さいのではないでしょうか。我々は月や太陽の見かけの大きさを過大に評価しているのです。絵画などで月や夕日は、一般には実際以上に大きく描かれています。

 月が空高くに位置する場合と地平線近くまたは水平線近くに位置する場合とでは、大きさが違うように感じます。地平線近くにあるときは大きく見え、空高くにある時は小さく見えます。これを月の錯視と呼んでいます。この場合、実際の大きさは変化していません。眼球の網膜に映る像の大きさも同じです。太陽も同じように日没直前の夕日は大きく見えます。

 なぜこのように月の位置によって大きさが違うように感じるのでしょうか。

 月の錯視の原因の一つには、大きさ恒常性が関係しています。大きさの恒常性とは、物体への距離が変わり網膜像の大きさが変化しても、物体の大きさは変わらずに知覚される現象です。例えば、近くにいる人は網膜に大きく映り、遠きにいる人は小さく映りますが、大きさは同じに感じます。逆に言うと、網膜に同じ大きさの像が映った場合、遠くにあるものほど大きく感じます。

 図1を見てください。同じ大きさの四角でも、遠くにある場合は大きく感じ、近くにある場合は小さく感じます。地平線近くの月の周りには、遠くの山や建物が一緒に見えます。月は、遠くにあるこれらのものよりさらに遠くにあるように感じます。しかし、空高くに位置する月の周りにはなにもなく、それほど遠くにあるようには感じません。この距離感の違いが大きさに影響を及ぼしています。

 しかし、周りに何も見えない真っ暗な部屋の中でも、月を模した地平線近くの光が、天頂近くの光よりも大きく見えるという実験結果もあります。月の錯視は、距離感の違い、月を見るときの人の姿勢などの要因が複合的に影響していると考えられていますが、正確なことはまだ明らかにされていません。科学技術が進歩しても、このように身の回りのことで分からないことがまだまだたくさんあります。

 


図1 二つの黄色い四角は大きさが同じですが、遠くにある黄色い四角が近くの四角より大きく感じます。