不思議を科学する

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バナナはいつから黄色くなったのか

 日本で最もよく食べられている果物といえばバナナです。安くておいしいだけでなく、多くの栄養素と食物繊維をたくさん含む健康食品でもあります。さらに手で皮をむくことができ、種もないので手軽に食べることができることも好まれる理由でしょう。

 しかし、元々のバナナには黒い種がありました。突然変異によって生まれた種なしバナナは、染色体の数が3本ずつになっている三倍体です。三倍体の植物というのは、種が出来にくい性質があります。種がない方が食べやすいのでこれを主に栽培するようになったのです。種なしスイカも同じ三倍体です。

 種ができないと種をまいて増やすことができません。種のないバナナをどのようにして増やすかというと、それは株分けによります。茎の根っこの脇から出てくる新芽を利用して苗を育て、それを植えておくとやがて大きな木になり、親木と同じ種のないバナナが実ります。

 バナナにもたくさんの品種があり、最も多く生産されているのはキャベンディッシュという黄色い品種です。日本では主にフィリピンから輸入されています。

 バナナの色というと黄色です。黄色以外の色のものはほとんど見たことがありません。もちろん熟する前は緑色で、熟しすぎると黒くなりますが、適度に熟したものはみな黄色です。

 しかし、昔アメリカでたくさん食べられていたバナナの色は2種類あり、黄色と赤茶色でした。赤茶色のバナナは「レッドバナナ」と呼ばれていました。それが現在では赤茶色のバナナが食べられなくなり、ほとんどが黄色いバナナになってしまいました。

 19世紀末までは黄色と赤茶色の2種類のバナナが中南米で生産され、アメリカに輸出されていました。その頃はまだ高級品で庶民はなかなか食べることができませんでした。その後、黄色い品種のバナナ(グロスミッチェル)だけが生産され、アメリカに輸出されるようになりました。赤茶色のバナナは黄色いものに比べ、皮が薄く、傷つきやすいため長距離の輸送に向かなかったのです。

 もし赤茶色のバナナが黄色い方より皮が厚く傷つきにくかったら、バナナの色は赤茶色になっていたことでしょう。人が最もおいしそうに感じる食べ物の色は赤色や黄色です。つまり黄色は赤茶色よりおいしそうに感じる色でもあるのです。一般的なバナナの色が赤茶色だったら、今ほどバナナが好まれて食べられるようになっていなかったかもしれません。

 

参考文献

久野愛、視覚化する味覚、岩波新書(2021)