不思議を科学する

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ナスを煮ると色落ちするのにトマトを煮ても鮮やかな赤色を保つのはなぜ

ナスを煮ると色落ちするのにトマトを煮ても鮮やかな赤色を保つのはなぜ

 

 野菜の色は緑以外に、赤、黄、青紫など様々な色がります。食卓を彩り、食欲を増加させる効果があります。これらの色は、植物が作り出した色素がもたらしたものです。

 イチゴ、リンゴ、ブドウ、ブルーベリー、ナスなどの赤や青紫の色はアントシアニンという色素によるものです。紫外線は人にとってビタミンDを作るのに必要ですが、長時間浴びると有害であり、しみ、皮膚炎、皮膚がん、白内障を引き起こす原因の一つとなっています。植物にとっても紫外線は有害であり、それから果実を守るために作るのがアントシアニンという色素です。人がアントシアニンを摂取すると、抗酸化作用があり、血液をサラサラにするなどの効果があります。

 しかし、アントシアニンは水に溶けやすく、ナスの煮物のように熱を加えると色落ちします。色落ちするとおいしそうに見えません。漬物の場合も同じでナスをそのままつけると色が落ちます。そこで、ナスを漬けるときに糠床に古い釘を入れておくと、色落ちを防ぐことができます。

 なすの青紫色は、アントシアン系のナスニンという色素の色です。このナスニンが鉄と化合(錯塩を形成)すると紫色の鮮やかな物質になり、安定した色を出す特性があります。釘の代わりに焼きミョウバンを入れても同じ効果があります。ミョウバンにはアルミニウムが含まれており、鉄と同じ働きがあるのです。

 ここで疑問が生じるのですが、なぜ同じ赤色のトマトやニンジンは煮たり、ジュースにしたりしても色落ちがしないかということです。これらの野菜の赤い色素はアントシアニンではなく、リコピンというカロテノイド色素の一つなのです。リコピンアントシアニンと同じように抗酸化作用があり、紫外線対策としての効果があります。またアントシアニンとは違って、リコピンは水に溶けず、熱に強いという性質もあります。そのため煮てもジュースにしても鮮やかな赤色を保つことができるのです。

 「糠に釘」ということわざがあります。手ごたえや効き目のないことのたとえです。糠に釘は、ナスの漬物をつけるときに限っては効き目ありです。夏バテで食欲がなくなった時など、鮮やかな青紫色の漬物は食欲をそそります。

 

参考文献

渡辺正、食べ物の色の科学、化学と教育(1993)