不思議を科学する

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なぜカマキリの目はいつもこっちを見ているのか

 子供の頃、バッタやキリギリスなら手で捕まえることができましたが、カマキリには手が出せませんでした。鎌のような前足が不気味です。カマキリは、その大きな前足で虫などを捕らえてむしゃむしゃと食べる獰猛な昆虫です。食べるのは虫だけでなく、オスより大きいメスは、オスをしばしば共食いします。

 カマキリを不気味に感じるもう一つの理由があります。それはこちらを見ている目です。

 逆三角形の形をした頭の両端に透き通った目が二つあり、それぞれに小さな黒い点が一つずつあります。その瞳のような黒い点がいつもこちらを向いているので、警戒して注意深く見られているような気になります。そしてこちらが動くとその動きに合わせて目を動かしているように見えるので、いつまでたっても目が合っているように感じます。

 カマキリは実際にこちらの動きに合わせて目を動かしているのでしょうか。それとも目が動いていくように見えるだけなのでしょうか。

 カマキリの目は、トンボやハエと同じように複眼です。数万個の個眼が集まって一つの目(複眼)を形成しています。二つの複眼とは別に頭の上に単眼が3つあります。単眼はおもに明るさを感じ取ります。

 複眼を形成している個眼は細い筒の形をしています。この個眼は正面から見ると黒く見えます。

 その理由を紙の筒を使って説明してみましょう。白い紙で筒を作りそれを黒い台の上に置き、上から見てください。斜めから見ると筒の中は白く見えますが、真上からみると奥の黒い台まで見通せることにより、黒く見えます。これが、個眼が正面から黒く見える理由です。

 ドーム状に配置されたたくさんの個眼は、少しずつ異なる方を向いています。観察者の方を向いているいくつかの個眼だけは、観測者の方に光を反射しないので黒く見えます。それ以外の個眼からは光が反射してくるので黒くは見えません。つまりこちらと正対しているいくつかの個眼の集まりが黒く見えるのです。そのためこちらの動きにつれて目が動いているように見えます。そしていつもこちらを見ているように感じるのです。

 カマキリの目の黒い点を偽瞳孔と言います。人の目の瞳孔のように黒く見えるからです。偽瞳孔はチョウやトンボなど他の昆虫にもあります。トンボの偽瞳孔はカマキリよりは大きいのですが、あまり目立って見えないので不気味さは感じません。

 


参考文献

神宮寺小学校、理科室通信(2008)