不思議を科学する

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縦書きより横書きの方が読みやすい?

 漢字が中国から伝わったときに縦書きであったので、日本では長い間縦書きが用いられてきました。

 欧米の言語やアラビア語などほとんどの外国語は横書きで書かれています。そのような文章は決して縦書きで書かれることはありません。中国でも今ではもっぱら横書きが用いられています。それなのに日本語の文章は縦でも横でもどちらで書くこともできます。子供のときから縦書きにも横書きにも慣れているので不思議には感じませんが、外国語と比べると日本語は特異な言葉です。

 新聞や本は縦書きが多く用いられます。一方、横書きはビジネスの文章やインターネットで使われています。学校の教科書も国語を除いて他の科目は横書きです。

手書きで書くときは、横書きが書きやすいように感じます。横書きは筆を持つ手ですでに書いた箇所が隠れてしまいます。前に書いた部分を見たいときは、手をずらさなければなりません。また英数字の表記では、横書きの方が簡単です。

 それでは、読みやすさの観点で比べるとどちらが優っているでしょうか。実験によると縦書きに比べて横書きの方が、読みやすいという結果が得られています。川崎医療福祉大学の井川美智子らの実験を紹介しましょう。

 実験は、縦書きと横書きの文章の読みやすさを比較するために行われました。

1辺が3.5mmの明朝体の文字を,A4用紙に1行45文字,15行で縦または横に印刷したものを使いました。そして読んでいるときの眼球の動きを計測しました。実験に参加した被験者は19~23歳の19名です。

 その結果、縦書きでは視線が止まる回数が多く,視線移動速度が遅くなることが示されました。被験者の感想でも、横書きのほうが読みやすいという回答が多く見られました。つまり、縦書きに比べて横書きの方が、視線移動がスムーズにできて、読みやすいということではないかと考えられます。

 また荒瀬光治氏の実験では、専門学校生13人により約1000字の文章を縦書きと横書きで読み終える時間を比べています。それによると縦書きが113秒、横書きが102秒となっており、縦書きは1割ほど余計に時間がかかっています。

 インターネットの普及とともに、横書きが徐々に増える傾向にあるようです。印刷された文章においても、読みやすさの点から横書きが増えていくものと思われます。

 

参考文献

井川 美智子、他、縦書き・横書き文章における読書時の眼球運動の比較、臨床眼科(2006)

荒瀬光治、編集デザイン入門、出版メディアパル(2007)