テレビの番組で自然や里山を扱ったものをよく見ます。最近、里山の棚田の良さが見直されているようです。耕作されずに荒れていた棚田が再び手入れされ、昔の姿によみがえっているところがあります。ひとつひとつ段差のある小さな田では機械が使いにくく、おもに手作業で行われています。農薬を使用しないか使用量を減らしているところが多く、昔いた水生動物や昆虫が戻りつつあります。そのなかで、豊かな自然がある証としてよく映し出されるのがホタルの幻想的な光です。夜の暗さとともに、カワニナやタニシなどの巻貝を餌とする蛍の幼虫には、きれいな水が必要だからです。
身の周りには点滅する光がたくさんあります。横断歩道の青信号、自動車のウインカー、店の看板、家電製品の何かの合図、自転車のライトなど、書き出したらきりがありません。これらはいずれも人工の光です。自然の光で点滅するものはほとんどありません。すぐに思いつくのは蛍の光だけです。
まだ人工の点滅光がなかった昔、人にとって蛍の光は特別な存在だったのではないでしょうか。夜の空は今よりはるかに暗く、その暗さの中でゆっくりと点滅する蛍の光をどんな風に感じていたのでしょうか。
蛍の光が人を引きつける理由について考えてみたいと思います。主な理由として以下の三つを挙げてみました。
点滅の周期が長い
同じゲンジボタルでも西日本と東日本では光の点滅の周期が違います。西日本の方が早く約2秒に1回光りますが、東日本のゲンジボタルは約4秒間に1回光ります。
一方、人工の点滅光は目立ちやすさを重視しているため短い周期で点滅を繰り返します。信号機の点滅やウインカーは0.5秒~1秒に1回、点滅します。
人工の点滅光で周期の長いのは灯台の灯です。大型の灯台はレンズを回転させ、あたかも点滅しているように見せかけています。点滅の周期は数秒です。発光間隔は灯台毎に定められており、その違いからどの灯台であるか判断できるようになっています。
変化がゆっくり
蛍の光は徐々に明るくなり、徐々に暗くなります。ゆっくりとした変化が落ち着きをもたらします。
ビルの屋上に設置されている赤色の点滅光(中光度赤色航空障害灯)も同じように徐々に明るくなり、徐々に暗くなります。この赤色の点滅光は、都会の夜景にうまく溶け込んでいて、夜景にほどよい動きを与えています。また、点滅周期が1.5秒に1回と比較的長いことも、夜景にうまく溶け込んでいる理由と思われます。
最近の人工の点滅光の光源にはLEDが使われるようになってきました。LEDは瞬時に明るくなり、瞬時に暗くなります。
ゆらぎがある
点滅の間隔が一定ではなく、長くなったり短くなったりと揺らいでいます。蛍の光の発光間隔には1/fというゆらぎがあると言われています。1/fゆらぎは、規則正しい変化と完全に不規則な変化の中間に相当します。繰り返す発光の間隔には、ちょうどよい不規則さが含まれています。それが見ている人の気持ちを和ませてくれるのです。
小川のせせらぎや浜辺に打ち寄せる波の音も同じように1/fゆらぎがあります。これを聴いていると不思議と気持ちが落ち着き、心地よさを感じます。