不思議を科学する

不思議を科学する

フンコロガシは星を見て進む

 動物が食べた餌のうち消化吸収されるのは20~80%です。残りの80~20%は消化されずに糞として排出されます。動物の糞にはまだまだ栄養分がたくさん含まれています。この動物の糞を食べ、分解してくれるのはミミズ、ハエ、甲虫などです。これらのおかげで自然がきれいに保たれているわけです。そして分解されたものは植物が育つための養分となります。

 コガネムシの仲間で哺乳類、特に草食動物の糞を食べるのが糞虫です。そのなかでもフンコロガシと呼ばれる糞虫は特に変わっていて、発見した糞を丸めて逆立ちで転がして運びます。そして運んだ先で糞の下に潜り卵を産み付けます。卵からかえった幼虫は、この糞を食べて蛹から成虫へと成長します。

 フンコロガシはカブトムシのように黒色をしているものが多く、中には金属光沢をしているものもあります。

 フンコロガシが昼間に糞を転がすとき、太陽の方角から自分の進む方角を割り出します。フンコロガシは夜も糞を転がしますが、夜は月の位置をもとに方角を知り進みます。しかし、月の出ていない夜はどうしているのでしょうか。

 1991年に創設されたイグ・ノーベル賞は「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる」実際の研究に与えられています。2013年度のイグ・ノーベル賞の受賞の一つに「天の川を頼りに道を知るフンコロガシ」が選ばれました。スウェーデン、ルンド大学の動物学者マリー・ダッケ(Marie Dacke)氏らの研究です。夜間に地面で糞を転がす際、フンコロガシが道を知るのに天の川を頼りにしていることを解き明かしました。

 フンコロガシをプラネタリウムの中で歩かせ、フンコロガシがどのような行動をとるかを詳細に調べました。その結果、天の川を表示しないとフンコロガシはまっすぐ進めませんでした。また、他の星がなくとも天の川の帯が表示されているとまっすぐに歩けました。フンコロガシは進む方向を知るために、天の川を手がかりにしていることがわかったというのです。

 ミツバチが巣に帰る時や渡り鳥が移動する時に、太陽コンパスを使っているといわれています。太陽コンパスとは、体内時計で太陽の位置を補正しすることによって方角を割り出す方法です。この小さなフンコロガシは、太陽だけでなく、月や天の川までを使って方角を知る能力を持つなんともユニークな虫です。

図1 フンコロガシは糞を丸めて逆立ちで転がして運びます


参考文献

井村治、放牧草地における糞虫の多様性と働き、日草誌(2007)