不思議を科学する

不思議を科学する

魚の目は「魚の目」ではない

 「魚の目」は「流 れ」を感じ取れることから、時代の変化をとらえて先を読む視点を持つことの例えとして用いられます。しかし、魚の目は流れを感じ取ることができません。流れを捉えているのは目ではなく、体の側面にある側線器官です。この側線器官を特に発達させた魚の例を紹介しましょう。それは洞窟に住むブラインドケーブカラシンという魚です。

 洞窟ができる理由はいくつかありますが、石灰岩が雨水によって浸食されてできた鍾乳洞には規模が大きなものがあります。中には全長が100キロメートルを超えるものまであります。

 そのような深い洞窟の奥は光が届かない真っ暗闇です。そんな中でもいくつかの動物が住んでいます。洞窟のなかでは独自に進化した動物を見ることができます。それらの多くは体の色が白く、目が退化しています。

 光がないところでは、色を付けて飾っても役に立ちませんし、紫外線から身を守る必要もありません。また目があっても見ることはできません。役に立たない器官を維持するのは無駄であり、生存に不利です。特に目は消費エネルギーが多いので、それに見合う働きが求められるのです。

 洞窟の奥深くに住む魚も目が退化したものがいます。メキシコ北東部の洞窟で発見されたブラインドケーブカラシンという魚もその一つです。目のないブラインドケーブカラシンは何不自由なく泳ぐことができます。目がなくてどうして障害物にぶつからずに泳ぐことができるのでしょうか?

 魚は五感以外に体の側面にある側線器官が発達しています。側線があるところの鱗には小さな穴があり、この穴の下に水の流れや水圧を感じ取る有毛細胞と呼ばれる感覚器官があります。有毛細胞には字のとおり毛状のセンサーがあります。そのセンサーを使って水流の変化や反射波を感知し、障害物を避けたり餌を捕まえたりすることができます。

 人の耳にも有毛細胞があります。音の刺激を感じ取る毛を有する聴細胞です。音波が鼓膜を振動させ、この振動が聴細胞に伝わることにより音が聞こえるのです。

 海でイワシなどの魚が大群で泳いでいる映像がテレビでよく映し出されます。イワシの大群は高速で泳ぎ、急旋回しても分裂したりせず、またぶつからずに適度な間隔をとって泳ぐことができます。これにも側線が役立っているのです。

 目で見て仲間を追いかけ、近づきます。近づきすぎると、今度は側線からの情報により他の魚から離れます。このようにして、他の魚と一定の間隔を保つことができるのです。目と側線が協調して働くためにイワシはきれいな大群で泳ぐことができるのです。

 

参考文献

阿見彌 典子、ブラインドケーブカラシン、比較内分泌学(2019)