民族によって色の好みには差があるようです。宗教で神聖とされる色については、その宗教を信じる人にとって独特の感情を呼び起こします。緑はイスラム教では聖なる色であり、イスラム教国の国旗に緑色がよく使われています。
御茶ノ水大学の駒城氏の論文(1)によると、日本人について最も好む色を調査した結果は白色となっています。一方、海外では鮮やかな青色が最も好まれています。鮮やかな青色は日本人でも2位に入っています。しかし白色は、外国ではいずれの国でも5位までに入っていません。
なぜ白色が日本人に好まれるのでしょうか。日本語で白というと、「清い」、「正しい」などの肯定的な意味を連想させます。これは外国語でも同じような傾向があるようです。
駒城氏は、白に関する日本の特徴としては、身の周りに白が多いことを挙げています。それは日本における和紙の文化によるものです。水墨画における紙の白さと墨の黒さの対比をはじめとして、熨斗袋(のしぶくろ)、扇子、うちわなどに白い和紙が使われてきました。また、行灯、障子などにも使われてきた歴史があり、普段から目にしていたことも影響しているかもしれません。
白いシャツや下着も清潔感が増すために真っ白な白ものが好まれる傾向があります。白い生地をさらに白くするために使われているのが、蛍光剤です。蛍光剤は紫外線を吸収し、青い光を出します。青は黄の補色で、二つの色の光が混ざると白くなります。蛍光剤には白い生地のわずかな黄色味をなくし、真っ白にする効果があります。
しかし、シャツや下着は使っているうちにだんだん黄ばんできます。汚れによるものだけでなく、洗濯を繰り返すうちに蛍光剤の効果が薄れてくることにもその原因です。一般的な洗剤には蛍光剤が含まれているので、それを使うと白さを保つことができます。
白くするための蛍光剤は、衣服だけでなく、白い紙にも使われています。紙をより白くするために、紙の原料に蛍光剤を混ぜたものが使われています。このように蛍光剤は、白を好む日本人にはなくてはならないものとなっているのです。
多くの人に好かれる色の順位の国別比較(2)
日本:白、鮮やかな青、明るい青、鮮やかな黄
ドイツ:鮮やかな青、鮮やかな黄、鮮やかなオレンジ、深い緑、鮮やかな赤
アメリカ:鮮やかな青、鮮やかな赤、茶、深い青
オーストラリア:鮮やかな青、鮮やかな黄、鮮やかな赤、明るい黄、深い青
参考文献
(1) 駒城素子、白さの色彩科学的考察と人間の感性による捉え方、紙パ技協誌(1995)
(2) 柳瀬徹夫、色彩心理分析の現状(色彩感情の計量化について)、繊維と工業(1987)