不思議を科学する

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隣の芝生は本当に青い

 『隣の芝生は青い』は、人のものは自分のものよりもよく見えることの例えとして使われています。欧米では庭に芝生を植えているのをテレビなどでよく見ますが、日本ではあまり見かけません。なぜこのことわざに芝生が使われるのか疑問に感じますが、『The grass is always greener on the other side of the fence.』の日本語訳だと言われると納得です。ここで、英文にもあるように日本語訳の青は、greenすなわち緑を意味する表現です。

 ところでことわざの意味とは別に、実際に隣の芝生は青く見えるのでしょうか。

 自分の庭と隣の庭に同じ芝が生えていて、光の当たり具合も同じだと仮定します。両者の見え方の違いに及ぼすものは、芝生までの距離と見下ろす角度です。

 自分の庭の芝生までの距離は近く、見下ろす角度は大きくなります。隣の庭の芝生までの距離は遠く、見下ろす角度は小さくなります。これらが芝生の見え方に違いをもたらします。

 見下ろした足元の芝生は、濃い緑の葉、黄緑の葉、枯れた葉、根元の陰の部分が重なり合って、まだらに見えます。全体的にはやや暗い緑の印象です。場合によっては、はげて地面が露出しているところがあったりして、美しいとはいえません。

 隣の庭の芝生までの距離は、数メートルから十数メートルくらいでしょうか。それくらい先の芝生はほぼ水平方向に見えます。遠くの芝は重なり合った葉の先端部分だけしか見えません。距離が離れるのに従って一つ一つの葉がはっきり区別できなくなり、やがてほぼ一様に緑色見えます。手入れが行き届いている庭では頻繁に芝刈りが行われています。そうすると特に刈り取ってしばらくした後の芝は、新しく伸びてきた葉で若々しい黄緑色に見えます。

 状況により一概に言えませんが、このように隣の芝生の方が美しく見える場合が多いと考えられます。

 どうにかすると他人の持っているものの方が、実際以上によく思えることはあるような気がします。身近なものほど欠点や粗が目に付きやすいことが原因かもしれません。しかし、隣の庭の芝が美しく見えるのは、気のせいではなく事実としてとらえた方がよいのです。

 『隣の芝生は青い』は、そういう意味で例えとして適切でなかったと思われます。同じようなことわざで、『隣の花は赤い』というのがありますが、どうもこちらの方が良さそうです。

 

参考文献

納谷昌之、梅干しとひかり、オプトロニクス社(2022)