不思議を科学する

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冬より夏のバターの方が黄色い

 牛乳にはカゼインと呼ばれるたんぱく質と脂肪球が液体中に溶けずに分散しています。カゼインの大きさは約0.0002ミリメートル、脂肪球は約0.002ミリメートルと両方ともとても小さな粒です。これらの粒に光が当たると乱反射し、牛乳は白く見えます。

 雲や霧は小さな水滴が集まってできています。それらの水滴の大きさはカゼインや脂肪球と同じくらいの大きさです。小さな水滴が光を乱反射させるために雲や霧は白く見えます。この光の乱反射をミー散乱(注参照)と言います。牛乳が白く見えるのもミー散乱によるものです。 

 バターは牛乳から作られます。しかし、白い牛乳から作られたバターは、なぜか黄色い色をしています。

バターを作るには、まず牛乳を遠心分離器に入れて高速で回転させ、脂肪球を分離させます。遠心分離機は比重の違うものを回転させて分離する機械です。脂肪球を取り除いた残りが脱脂粉乳となります。

 昭和31年生まれの私の世代には、小学生の時に給食に出されたこの脱脂粉乳はなつかしい思い出の一つです。おいしくないとあまり評判の良くありませんでしたが、脂肪分以外のタンパク質やカルシウムなどは牛乳と大きな差はありませんし、脂肪分が少ないのでカロリーは半分くらいになります。健康に育つことができたのも脱脂粉乳のお陰かもしれません。

 遠心分離機で分離した脂肪球を集め、激しくかき混ぜると脂肪球の表面の膜が壊れ、乳脂肪の塊になります。この塊を集めて練って作ったのがバターです。脂肪球には黄色の色素(カロテン)が含まれています。かき混ぜることによって膜が壊れると、乳脂肪本来の色が見えてくために淡い黄色になるのです。

 夏に作られたバターは黄色みが濃くなります。脂肪球に含まれるカロテンは牛が食べる餌に由来するものです。夏になるとカロテンをたくさん含む新鮮な牧草(青草)を牛が食べるため、その牛から採った牛乳にもカロテンが多く含まれることになります。それで夏に作られたバターは黄色味が増すのです。

 一方、冬は牧草があまり育ちませんので、エサはもっぱら干し草です。牛はカロテンをたくさん吸収することができません。そのため冬に作られるバターの色は夏ほど黄色みが濃くならないのです。

 

ミー散乱:光の波長と同じくらいの大きさの粒に光が当たると、全ての波長の光を同じように乱反射させます。つまりすべての色の光が同じように散乱されて見ている人の目に届くので白く見えるのです。

 

参考文献

ののちゃんのDO科学、朝日新聞2022.6.4