不思議を科学する

不思議を科学する

暗いと話がはずむ

 視覚心理の実験では、暗い中で実験を行う場合があります。暗い所に目が慣れるまで電気を消してから10~15分待ってから実験を始めます。それまで被験者と二人で真っ暗な中で待つことになりますが、意外とこの時に話がはずむことが多いのです。暗さが話しやすさにプラスの影響をもたらしている気がします。

 バーやレストランなど店内を薄暗くしているところがたくさんあります。そのような店では、リラックスして話しやすいように感じます。明るさと会話のしやすさとの間にどのような関係があるのでしょうか。

 東京都市大学小林茂雄博士が、カフェで明るさとBCMの音量が会話行動にどのような影響を与えるかについて、実験を行っています。被験者は、20代の大学生と社会人で、男女各12組の計24組48名です。明るさはカフェの一般的な明るさに近い90ルクスと暗い5ルクス、BGMは45デシベルの小音量と75デシベルの大音量の2条件で比較しています。5ルクスというと、街路灯がある夜の住宅街の明るさくらいです。45デシベルは図書館や静かな事務室くらいで、小さな声での会話が可能です。75デシベルは電車や高速走行中の自動車の中くらいで、会話するには大きな声を出す必要があります。

 実験結果によると、まず視線合わせについてですが、男性は音量が大きいときによく視線を合わせ、女性は照明が暗いときによく視線をよく合わせることが分かりました。全体的に男性に比べ、女性の方が視線をよく合わせながら会話します。また、男性は暗いときとBGMの音量が大きいのときに会話量が多くなり、女性はBGMの音量が小さいときに会話量が多くなっていました。

 男性と女性では差があり、暗い時に会話量が増えるのは男性の場合です。またBGMの音量に関しては、男女で逆の結果になっています。私自身の経験では、男性の実験結果と同じで、暗めの方が話しやすいし、他に何組か客がいてある程度にぎやかな方が話しやすい気がします。ただし、あまり音楽が大きいと逆効果になり、会話しにくくなります。

 ただし、会話のしやすい環境は、初対面か親しい友人かなどのお互いの関係や人数によっても変わってきそうです。

 ゆっくりと会話を楽しめる空間を提供したいのか、客の回転を上げたいのかにもよりますが、客層に合わせ灯や音楽を変えてみるのが良さそうです。また自宅に人を招くときにも実験結果を参考にしてみてはどうでしょうか。

 

参考文献

小林茂雄、コミュニケーションを促すあかり、住まいと電化(2007)