不思議を科学する

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昔の灯は今の灯の100分の1よりは暗かった

  昔日本で使われていた行灯(あんどん)や和ろうそくの光は現在家庭などで使われている白熱電球やLED電球に比べ、とても弱いものでした。小山恵美氏によると、行灯を30センチメートルの高さに置き、そこから30センチメートル離れた地点での照度は1 ルクスを下回るそうです(文献参照)。ルクスは机の上や地面などがどのくらい強く照らされているかを表す照度の単位です。現在の住宅の居間での団らんや娯楽の場合は、150~300 ルクスが望ましいとされていることを考えると、昔の住まいはその150~300分の1の明るさ、今よりずっと暗かったことが分かります。

 テレビの時代劇で、行灯の灯の下、裁縫をしたり書を読んだりするシーンがときどき映し出されます。光の強さから考えると実際は難しかったと考えられます。行灯の明るさでは細かなものが見えないために、行灯の覆いを取るなどして、炎の近くに寄り光で直接照らすことによってやっと書物を読んだり、裁縫をしたりすることができたようです。

 行灯は、木などの骨組みに和紙を張ったものの中に菜種油などを入れた皿があり、木綿などの灯心に火をつけて使います。火の周りを紙で覆っているので、火事が起きやすいのではないかと心配になりますが、実際は行灯を倒しても火事が起きることはまずないそうです。それは行灯に使われる菜種油の引火点が313~320℃と高いことにより、倒したときに火が消えるからです。オイルランプに使われている灯油の引火点は40~60℃と低いので、行灯よりはオイルランプの方が、火事が発生しやすかったようです。

 和ろうそくは江戸時代から一般に使われるようになりましたが、高価であったため庶民の間で使われることはあまりありませんでした。和ろうそくは今でも仏事の時などに使われています。ハゼの実から作られており、パラフィンから作られる洋ろうそくに比べて高価です。洋ろうそくとの一番の違いは、和ろうそくの方が、炎がゆらぐことです。中に空洞があるため、空気が蝋燭の中を流れ、炎をゆらがせるのです。暗闇の中で和ろうそくを灯すと、ゆらぐ炎が独特の雰囲気を作り出します。

 昔の茶室は、二畳ほどの部屋に和ろうそくが灯されていました。明るさは数ルクスです。ほの暗さが気持ちを静め、二人だけのゆったりとした時間を楽しんでいたと思われます。

  行燈やろうそく、オイルランプの出現で焚火より安定した灯りを手にしたわけですが、その明るさは昼間の明るさの分の1程度。昼と夜の明るさは明確に違っていたことになります。

 

参考文献

(1)小山恵美、ヒトの社会生活における光環境と生物時計について -工学および文化的考察-、時間生物学Vol.17-1、pp.35-44(2011)