不思議を科学する

不思議を科学する

肉眼で血液の細胞が見える

 最初に細胞を観察したとされているのは、17世紀のイギリスの科学者であるロバート・フックです。発明されて間もない顕微鏡を使って薄く切ったコルクを観察し、小さな部屋がたくさんあることを見つけて、これを細胞と名付けました。

 フックが自ら作り使っていた顕微鏡の倍率はおよそ150倍だったと言われています。生物の組織を構成する細胞はとても小さくて一般には目に見えません。ただし、中には実際は目に見える細胞もあります。動物の細胞で一番大きなものが卵です。その中でも最も大きいのがダチョウの卵で15センチメートル以上あります。それが一つの細胞だと分からなかっただけです。

 人の目で見える大きさは0.1ミリメートルくらいまでです。髪の毛の太さが約0.1ミリメートルです。血液の主な成分である赤血球や白血球はそれぞれ一つの細胞でできています。赤血球の大きさは髪の毛の太さの10分の1くらいで、約0.007ミリメートルです。白血球大きさは種類によって異なりますが赤血球の2倍くらいです。いずれにしても顕微鏡を使わないと人の目には見えません。

 オランダのレーヴェンフックも自ら顕微鏡を作り、多くのものを観察しました。そして1674年、その顕微鏡を使って人の赤血球を初めて観察しました。バート・フックが使っていた顕微鏡は二つのレンズを組み合わせたものでしたが、レーヴェンフックが作成した顕微鏡はレンズが1つしかないものでした。しかし、倍率はロバート・フックのものより高い266倍でした。

 顕微鏡がないと詳細に観察ができないのが血液の細胞ですが、これらを肉眼で見る方法があります。

 明るい空を、目を細めてぼんやりと眺めていると、数個のつぶつぶの点の影が流れていくのが見えます。何かゴミが動いているようにも見えます。網膜の毛細血管を流れる白血球や赤血球が見えているのです。

 つぶつぶの影が動いていくのをなんとなく見ていましたが、ほとんどその存在を意識することはありませんでした。それらが血液の細胞だと知ってからは時々気にするようになりました。

 目の瞳孔から入ってきた光が網膜に届きます。この光を感じ取る細胞は視細胞と呼ばれ、網膜の一番奥にあります。網膜の表面には毛細血管が張り巡らされています。光が視細胞に届く前に毛細血管を横切ります。そのため毛細血管を流れる赤血球や白血球が見えるのです。したがって人はずっと昔から血液の細胞を見ていたことになります。ただし、それが細胞とはだれも気づいていませんでした。

 

参考文献

村上元彦、どうして物が見えるのか、岩波新書(1995)