不思議を科学する

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1本の梅の木に2色の花が咲くのはなぜ

 団地の中の小さな公園に赤い梅と白い梅の花が咲いていました。近づいてしばらく眺めていて、不思議なことに気づきました。花の色は2種類なのに幹は1本しかないのです。赤い花と白い花は同じ梅の木が咲かせていたのです。てっきり赤い花を咲かせる梅の木と白い花を咲かせる梅の木が2本並んでいるものと思っていました。別の木の枝がどこかから伸びてきているのではないかと、何度か確認したほどです。誰かが接ぎ木をしたのでは、などと理由を考えてみました。

 梅にはたくさんの種類があり、花の色にも赤、ピンク、白などがあります。上の例のように1本の木に赤と白の2種類の色の花が同時に咲くことがあります。

 1本の木に赤と白の花が咲くことを「源平咲き」といい、比較的よくあることだそうです。源平合戦のとき、源氏と平氏は戦いで敵と味方を区別するために、源氏は白い旗(白地の布に紅色の丸)、平氏は赤い旗(紅地の布に金の丸)を用いていたことから、この名前がついたと言われています。

 梅の花の赤い色はアントシアンという色素によります。アントシアニンは、植物の花や果実に赤、青などの色を与える色素です。源平咲きはアントシアニンを作り出す遺伝子の突然変異によるものです。梅の花は遺伝子変異で花色が変わりやすく、紅梅の枝のどこかの細胞に突然変異が起こると、細胞の色素合成が変化し、そこから先の枝はすべて白い花が咲くことがあります。源平咲きは梅だけでなく、桃、椿、ツツジなどにも見られます。

 なお、日本の国旗である「日の丸」は、源平合戦で勝利した源氏の「白地紅丸」の旗が、後に受け継がれたという説があります。江戸幕府も、開国する時に、公用旗として白地に紅丸の旗を用いたとのことです。

 紅白は、古来おめでたい色とされており、お祝いの儀式などによく使われています。紅白の幕、紅白の水引、紅白まんじゅう、紅白かまぼこなど、縁起物として用いられています。

 梅は、2月になり、寒さが少し緩み始めた頃に咲きます。他に花が少ないまだ寒い時期に咲くことから、梅は春の訪れを告げる希望の象徴です。そのためか、松や竹とともに縁起のいいものとされてきました。そんな縁起のいい梅が、さらに紅白の2種類の色の花を咲かせれば、いっそうめでたいことになります。

 

参考文献

吉村耕治、他、日本文化における紅白の意味―日本の色彩文化の特質―、日本色彩学会誌 (2019年)