不思議を科学する

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触れ合いにより優しくなるコオロギ

 SNSは顔が見えないだけでなく、匿名で自分の考えを発することができます。そのためか意見が過激になりやすく、誹謗中傷で特定の個人を攻撃することもしばしばです。攻撃された人は傷つき、ときには自殺にまで追い込まれたりすることもあります。

 金沢工業大学の長尾隆司氏は、コオロギの飼育環境と攻撃性の関係について実験を行っています。実験で行ったコオロギの代表的な飼育条件を示すとAからDまでの4つです。

 A:250匹を集団で飼育

 B:透明プラスチックケースで隔離して飼育

 C:遮光プラスチックケースで隔離して飼育

 D:金網ケースで隔離し、集団のコオロギの中に入れて飼育

 飼育後に2匹を取り出し、闘争行動を調べました。その結果、もっと激しく争ったのがBの「透明プラスチックケースで隔離して飼育」したコオロギでした。多くが相手を追いかけ回したり、傷つけたりしました。中には相手が死ぬまで攻撃を続けるものもいました。一方、最も攻撃性が低いのはAの「250匹を集団で飼育」したコオロギでした。攻撃は多くは短時間で終わる穏やかなものでした。

 Dの「金網ケースで隔離し、集団のコオロギの中に入れて飼育」したコオロギは、完全には隔離されていなくて、触角や肢の触れ合いが可能です。攻撃性は、Aの集団で飼育したコオロギよりは高いが、BやCの完全に隔離して飼育したコオロギより弱いという結果になりました。触角や肢の触れ合いが攻撃性を下げるという効果があるのです。

 社会的環境の遮断(隔離)がコオロギの攻撃性を強くさせることが分かります。マウスやサルにおける実験でも同じような結果が得られているそうです。

 最近はネット上のつながりが増えてきましたが、人が仲良くしていくためには実際に会い、ときにはふれ合うことが大切なのかもしれません。

 

参考文献

長尾隆司、身の丈に合った生活-コオロギから見た人間社会-、安全工学、Vol. 43-3(2004)