光や音などの刺激に対して反応するまでの時間を反応時間と言います。反応時間にはいくつか種類があり、代表的なものに単純反応時間と選択反応時間があります。
単純反応時間は、例えば、光が見えたらできるだけ早くボタンを押すというようなもので、1種類の刺激に対して1種類の反応をします。一方、選択反応時間は、赤い光が点灯したら左のボタンを押し、青い光が点灯したら右のボタンを押すというようなもので、2種類以上の刺激に対してそれぞれ別の反応をするものです。これまで反応時間を調べる研究はたくさん実施されており、光の刺激に対する単純反応時間はおおよそ0.2秒で、2種類の光の刺激に対する選択反応時間は約0.4秒です。
ここで、野球でピッチャーが投げる球に対するバッターのスイングを、反応時間から考えてみたいと思います。
ピッチャーが投げるマウンドからバッターがいるホームベースまでの距離は18.44メートルです。プロ野球のエース級のピッチャーが投げる直球の時速は150キロメートルを超えています。時速150キロメートルを秒速に直すと41.7メートルになります。これから計算すると、ピッチャーの手を離れた球がホームベースに到達するまでの時間は0.44秒ほどです。
ピッチャーは通常複数の球種を投げます。ピッチャーが投げる球に対するバッターの反応時間は、選択反応時間に相当すると考えられます。ピッチャーの手を離れた球がホームベースに到達するまでの時間0.44秒は、2種類の光の刺激に対する選択反応時間とほとんど同じです。つまりバッターはボールがピッチャーの手から離れた瞬間の情報で、球種やコースを判断し、スイングをしなければならないことを意味しています。
選択反応は刺激の種類が増えるにしたがって反応時間は長くなります。球種が増えることは刺激の種類が増えることと同じです。その場合、球がホームベースに届くまでの時間より反応時間が長くなってしまいます。それではボールがホームベースを通過した後、スイングすることになります。間に合わせるためには、ある程度球種を予測しスイングをする必要が出てきます。プロ野球のバッターは極めて困難なことをしているのです。
歳をとると筋力や動体視力の低下だけでなく、反応時間が長くなる傾向にあります。止まっているボールを打つゴルフは比較的高齢になっても若い人と対等に競技ができます。しかし、高速の球に対応しなければならないプロ野球では、年齢が高くなるにしたがって現役を続けていくことの難しさを反応時間のデータは示しているのではないでしょうか。
参考文献
大山正、反応時間研究の歴史と現状、人間工学(1985)